Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年4月㉔「カオマンガイの失敗」後編-  

カオマンガイの失敗の一つは「仕込み方法」(前回記事参照)、そしてもう一つは「ソース」だった。シンプルゆえ、火の入れ方が重要となる料理であると同時に、お店独自のソース(たれ)が決め手になるメニューでもある。仕込みの時間配分に慎重になりすぎてイメージする仕上がりにならなかったのと同様に、ソースの失敗も僕の弱腰によるものだ。

前回の記事に書いたように、「正統派と明らかな一線を画したオリジナルのカオマンガイ」として提供している。ソースにおいても同様で、一般的にカオマンガイにはあまり使われない調味料でソースを作っている(以下、「基本ソース」と表する)。お店をオープンする前から僕は自宅でカオマンガイを作り、これに合うソースについて様々なパターンを試してきた。その試行錯誤の中で「美味しい」という当然の第一条件を満たし、かつ、「多くの人に受け入れられるテイストである」という第二条件にも当てはまり、さらに「正統派からは距離を置きつつも、本質からは離れない」、その3つの必要条件をクリアすることを目指し、行き着いたのがオープン当初提供していた基本ソースである。

ここで難しいのは第二条件である「多くの人に受け入れられるテイスト」。それをどう定義するか、そしてどこに線を引くか、が悩ましい。攻めすぎると刺さる人には刺さるけど、反面リーチが広がらないリスクがある。無難に行けば幅はそれなりに広がるはずだけど、インパクトは弱く、印象は薄い。ここをどう考えるかが作り手の楽しみであり、葛藤でもある。

最初は無難に行こう、というのが僕の当初のスタンスだった。多国籍料理店であるという時点でそもそもエッジがきいているわけで、ランチメニューにおいてはまずは安心感を打ち出したい。基本ソースを使えばエスニック料理特有の独特なテイストは抑えられ、苦手な人や馴染みのない人もきっと受け入れられるし、先入観や固定観念も崩せるはず。そのかわり、本場を知ってる人からすれば物足りないかもしれない、まがいものになってしまうかもしれない。けれど、何はともあれ「何を優先させるか」であり、そのプライオリティのてっぺんにあったのが「安心感」だった。

ところが、この弱気な姿勢は失策だったと今では断言できる。一言でいえば、無難すぎた。シャープさに欠ける、極めてぼんやりとしたテイストだったと思う。

本来、僕はこの基本ソースとは別に、ナンプラー(タイの魚醬)をベースとしたナンプラーソースを用意していた。基本ソースとナンプラーソースをダブルでかけるのが最も美味しい(味がしまり、まとまる)と思っていたのだが、ナンプラーを生臭く感じる人も中にはいる。ゆえに、最初の一ヶ月は基本ソースのみで提供していたし、間もなくこれを改め、ナンプラーソースはココットで別添えで提供するようにした。

今では(2017年7月現在)、基本ソースとナンプラーソースの相掛けをデフォルトとしている。さらに卓上には辛味の効いたソースと、酸味の効いたソースを置き、ゲストが自分の好みに合わせて、味をカスタマイズできるようにしている。さらに言えば、基本ソースはオープン当初から今に至るまで、2,3回アップデートしているので、初期に比べてテイストは大分重層的になっているはずだ。勿論、味を尖らせていく過程において、離れていったゲストも多少はいると思うけど、今見ている限りだと離脱数よりも定着数の方が多い。

以上、「仕込み方法」と「ソースのテイスト」の2点が僕が思う「カオマンガイの失敗」だ。両点とも自分の消極性が招いたフィルダースチョイスであり、この消極性に基づく失策はカオマンガイだけではなく、随所に散りばめられていたと思う。ディナータイムに関しては商売不繁盛論に基づく意図的沈黙であり、これについては英断だったと今でも思うけれど(おそらくカオマンガイに類似した失敗を重ね、客離れを引き起こしていただろう)、ランチに関してはもっと積極性を持つべきだったと反省している。


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*写真は現在の「カオマンガイ」。