Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年4月㉒「シーズンドライス」後編-  

初期の段階におけるランチメニューは2種類。一つは「カオマンガイ」で固定、もう一つは「シーズンドライス」とし、こちらを日替わりとする。シーズンドライスというのは平たく言えば「炊き込みご飯」、例えばその日のメニューがバターチキンカレーであればそのテイストでご飯を炊き上げ、上にバターチキンカレーを乗せ、ガパオであればガパオを作る調味料でご飯を炊き、上にガパオ炒めを乗せる、そういう案配だ。

バターチキンカレーはバターチキンカレーとして提供し、ガパオライスはガパオライスとして提供すればいいものの、何故わざわざ手間のかかるようなことをしたか。

一つ目としては前回の記事にも書いたように「ラインナップを増やすため」。当時のスキームではトムヤムクンというスープを出すことはできない、でもトムヤムクンテイストのご飯を作ることはできるし、その上にトムヤムクンテイストで味付けした炒め物を乗せることはできる。それをありとするならば、バリエーションは飛躍する。「シーズンドライスのトムヤムクン味です」、「シーズンドライスの~味です」、というオリジナルのパッケージにくるんでしまえば、ある程度、地平線を広げることができる。

もう一つは、「正統派と差別化するため」。例えばスペイン料理屋からすれば僕がランチで出すパエリアははっきり言って、きっちりまがい物になる。かと言って、パエリアではなく「パエリア風」と婉曲的に表現するのにも前向きな気持ちになれない。極論、ほとんど全てが「~風」なのだ。そのほとんど全ての曖昧に対して、ほとんど全てに律儀になるのも億劫だ。であれば初めから、前提と念頭を置き換えたほうがいい。シーズンドライスというのは積極的なペネトレイトでありながら、同時に開き直ったリスクヘッジでもある。

上記2点を踏まえた上で、3つ目に挙げるのが「親近感を図るため」。トムヤムクンを食べたことがない人がランチでトムヤムクンを選ぶことはなくても、トムヤムクン味の「ふりかけ」なら試してくれるかもしれない、そういうニュアンスを突きたかった。「炊き込みご飯」というワードを用いることによって、取っつきやすくする。一度頼んでくれればあとは要領を得てくれるはずで、自分の生活圏内にない料理や新しい味に対して警戒心を解いてもらう。そういう文脈において、僕はシーズンドライスというスタイルを用いることによって、多国籍料理というハードルを下げることを試みた。


トムヤムクンのシーズンドライス

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ガパオライス

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タンドリーチキン

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そして、パエリア。

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なお、シーズンドライスという名称に関しては2か月もしないうちに変更した。僕の友人が運営するメディア『世界新聞』の記事(2015年5月21日)ではすでに「シーズニングライス」とある。

sekaishinbun.net


この記事においてもあるように当時、価格は900円だった。今はシーズニングライスという名称そのものを取りやめ、「世界の日替わりランチ」としているが、価格はカオマンガイと同じく800円で統一している。当時のこの100円の差異は原価の問題もあるし、提供量が限られていたというのもあるけれど、それよりも「まずはカオマンガイを試してみてほしい」という気持ちに由来する。お店のレギュラーメニューが認知、定着されることを優先した。

だから仕込みの量もカオマンガイの方が多かったし、実際に出数もシーズニングを大きく上回っていた。この動きそのものに関しては僕の思惑通りだったと言える。

ところが、この思惑通りの販売比率が初期のランチ営業における失策に繋がった。僕はカオマンガイに対して慎重になりすぎたのだ。そして、必要以上に慎重になりすぎたゆえ、本来できるはずの、できたはずのパフォーマンスよりも劣っていた。当初、はっきり言って、きっちりレベルが低かった。