前回の記事より、
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僕はカオマンガイに対して慎重になりすぎたのだ。そして、必要以上に慎重になりすぎたゆえ、本来できるはずの、できたはずのパフォーマンスよりも劣っていた。当初、はっきり言って、きっちりレベルが低かった。
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と今でも思うし、もし初動の段階でもう少し余裕があれば、もっと早くランチを安定させることができたかもなと反省する。
ランチメニューのもう一つ、シーズンドライスは日替わりで、メニューにもよるけれど、基本的には当日の朝、出勤してから仕込まなければならない。例えば、極端に言えば海鮮を使うとなると、一度火を通してしまうと身が縮むため再加熱は不適切、などといった理由で。
出勤時間は10時半、ランチが始まるのは11時45分(基本的に)。1時間15分で調理を終えなければならないということは当時に自分にとってはプレッシャーだった。初期においては特に想定していないトラブルも多い。その対応に追われると、仕込みが間に合わなくなる。ならばもっと早く来ればいい、という話になるし、オープン当初であればそれぐらいのガッツは当たり前のことなのだけど、極力そういうふうにはしたくなかった。それが前提になると、それが習慣となり、それに疑問を抱けなくなる。ランチもディナーも営業するのであれば、「10時半に来ても対応可能な範囲で」という前提を最初から崩したくなかった。
オープンまでのその1時間15分を日替わりにつぎ込むのであれば、カオマンガイの仕込みはそれよりも前倒しに済ませておかなければならない。つまりは前日になる。前日のうちにできるところまで進めて、仕上げを当日にやればいいと考えていた。
他店がカオマンガイをどのように仕込んでいるかはわからないし、オーセンティックな調理法とアレンジやオリジナルではその方法は異なると思う。自店の場合、正統派とは明らかな一線を画したオリジナルのカオマンガイとして提供している。色々と理由はあるけれど、個人的にはそっちの方が美味しいと思っているし、ターゲットを絞ることなく、広範囲にリーチできると踏んでいた。そして、そのカオマンガイであれば10時半に出勤したとしてもオープンまでに間に合わせることができる。
が、上記の理由により、そうせず、前日の段階である程度仕込んでおくことにした。
当初は前日に仕込んでも、当日だとしても味についてはそう相違ないと思っていたけれど、工夫と試行、マイナーチェンジを繰り返していく中で当日仕込みの方が美味しいと感じるようになった(あくまで自店のカオマンガイの場合であり、あくまで個人の嗜好差はあるが)。簡単に言えば、当日仕込みの場合は弾力感のある仕上がりとなり、前日仕込みの場合はしっとりとした仕上がりになる。「弾力感」⇔「しっとり」というパラメータだけで考えれば、本場はどちらかと言うと「しっとり」寄りになると思うのだけど、自店では(そして僕の嗜好では)、弾力感のあるカオマンガイを提供したいと考えている。
今では(2017年7月現在)、カオマンガイは基本的に当日の朝に仕込んでいる。と同時に、日替わりを仕込み(時には2種仕込み)、フォーも用意している。全体の出数も2倍に近い。アイテム数もボリュームも当時からすれば考えられないけど、無理をしている意識は特になく、マイペースでできている。あれだけ毎日汗だくでやってたのは何だったんだろうと思うし、このスピードで仕込めていたら…、今のスペックで提供できていれば…、という「たられば」は拭えない。
これがカオマンガイの失敗の一つ。
けれど、良く言われるように「失敗」から学ぶところは多い。
もう一つの失敗も似たような性質を帯びる、「失敗」だ。
*写真は当時のカオマンガイ