Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年4月③「商売不繁盛論」vol3-

【前提2】借入がなかった

というのもオープン当初、商売不繁盛論を展開していく上での大きな要因となった。

飲食店を開くにはそれなりの開業資金が要される。

 

 個人事業主が例えば自店の条件(東京都内、14.5坪)でお店を開くのであれば、


・スケルトンの場合(ゼロからの場合):1,200万~1,500万前後
・居抜きの場合:600~700万前後

くらいがざっくりの相場になるのではないだろうか。勿論、一口に「東京都内」と言ってもピンからキリまであるし、「14.5坪」と言ってもキリからピンまである。主体者が何をどこまでこだわるかにもよる。条件が揃えば、上記よりもぐっと低い金額で開業できるかもしれないし、当然逆もある。この手の試算や目安はweb上でよく見かけるが、結局、概算の域は出ず、正確性に欠ける。けれど、自分名義で物件を契約して独立開業する場合、それぐらいの金額感になるのが一般的ではないかと思われる。

上記の仮定で話を進めると、居抜きでも開業資金だけで600~700万。悠々と出せる金額ではない、というのが一般的だろう。ましてや20代後半から30代前半での独立となれば、なおさらだ。大手企業や勢いのあるベンチャーからの転身であればともかく、飲食での独立を目指す人の多くは当然、飲食業に従事しているパターンがほとんど。長きにわたる強い意思と忍耐がなければ、600~700万の貯蓄を作るのは難しい。


自己資金だけで開業資金を捻出するのが困難であれば、選択肢は「他から借りる」という以外にない。身内からの協力だけで工面できれば返済の厳格度は幾分和らぐかもしれないが(勿論、これも一概には言えない。それに「身内」と言ってもそれは「家族や親族」だけを指し示すわけでもない)、さらにその上で金融機関からの融資を取り付けるというケースが多い。


ここで言う「金融機関」でまず最初に挙げられるのが日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)。理由は1.他と比べて審査が寛容で、2.他と比べて借入金利が低い、から。とは言え、公庫が設ける融資制度にはいくつかの種類があり、申請内容によって条件は変わってくる。そして、返済方法も個々のケースに応じてそれぞれ異なる。したがって、返済額が月々の売上をどれだけ圧縮するかも各々の場合による。けれども、「借りたものはお礼を乗せて返さなければならない」。それは言うまでもない厳然たる鉄則で、融資を受けたその瞬間から、全ての行動原理にこの鉄則が付与されることになる。


僕も東京で店を構える以上、公庫からの融資は開業の時点で不可欠なものになると考えていた。けれども、実際は「自己資金」と「身内の協力」だけで工面できる金額に収まった。融資を必要としないギリギリのラインで着地したのはひとえに「運」だった。運が良かっただけで、ここに汎用性のあるメソッドはない。


と、ここまで書いてきたけれど、要は「開業の時点で借金をする必要がなかった」ということであり、ゆえに「月々のキャッシュフローに借入の返済を考慮しないでいい」というスタートラインに立つことができた。この幸運が商売不繁盛論の礎の一つとなっている。とどのつまり、気が楽だったのだ。がむしゃらな営業になるのを回避できた。もし借入があったとしたら、貸主の立場を考慮して「商売不繁盛」だなんて口にできない。


もっとも、がむしゃらな営業が必ずしもいい結果を生むとは限らないと思っている。一時的な売上を一時的に立てることができたとしても、そこに持続力と継続性がなければ翻ってマイナスになる、その想像は容易だ。そういった文脈で言えば、仮に借入があったとしても僕はやはり商売不繁盛論を推し進めていたと思う、貸主には内緒で。


<補足>

①「身内からの協力」への返済は今後、月々の定期預金から捻出していく。

②このチャプターにおいて「融資」について触れる必要性は特になかったが、この先の話の中で重要なワードになることから、この記事の中で概要を説明することにした。

③今回は「開業資金」だけにフォーカスを当てたが、実際は「初期の運営費」も最初から用意しておかなければならない。「はじめの3ヶ月はお客さんが誰も来なかったとしても大丈夫」っていうぐらいのストックがあるべき、とよく言われるが、さすがにこれは非現実的なように思える。けれど、大袈裟に言えばそれくらいの余裕があるのがベター。


→vol4に続く。