Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

【秋葉原路地裏酔いどれ感情論年末特別号②】「つい感情的になってしまって、申し訳ございませんでした」

このままでは審査に落ちると思った。一度、決定されてしまえばそこからひっくり返すのはおそらく困難だろう。であればその前に粘るしかない。これがありなのかどうか、有効なのかどうかはわからないけれど、今日出した事業計画をイチから書き直すことにした。

自分の見立てが甘かったのは認めざるをえない。今日、松野さんに指摘されたこと、突っ込まれたことを埋めつつ、内容を明確化し、根拠をよりソリッドにした。朝までかかったが仕方がない。ここはJ×Jにとって大一番だ。

翌朝、日本政策金融公庫に電話をかけ、松野さんにつないでもらった。まず、昨日の自分の態度を詫びた。

「つい感情的になってしまって、申し訳ございませんでした」

「いえいえ」

「昨日の資料なのですが、自分も不足部分が多かったと反省しており、できれば再提出をお願いしたいのですが、お時間いただけないでしょうか?」

「なるほど…」

「お忙しいところご無理申し上げて、重ねて申し訳ございません…」

「資料はもうできているのでしょうか?」

「はい」

「では今日の14時から14時半でいかがでしょうか?」

「わかりました、伺います」


そして、14時。大一番が始まる。もう松野さんの無感情に怯えたりはしない。

 

「いや、実はね、ヤマモトさん、私、あのあと夜、ヤマモトさんのお店に行ってみたんですよ」

という思いがけない一言に不意を突かれた。

「いつもいつもこういうことしてるわけじゃないんですけどね、やっぱり、気になるじゃないですか、どんなお店なんだろうって。そこで歩いて行ってみたんですよ」

日本政策金融公庫とJ×Jは近くない。

「ヤマモトさんは立地が悪いとおっしゃるけど、私はそうは思わなかったですよ。周辺に大きい企業も多いし、十分に可能性あるんじゃないでしょうか。それになんかあったかい隠れ家的なお店だなと感じましたよ」

昨夜、その「なんかあったかい隠れ家的なお店」の厨房に立っていた店主は昨夜、すっかり青ざめていたわけだが…。

「ヤマモトさん、この資料、昨日あのあと作ったんですか?すごいですね。昨日、あのあと私も上司になんとか満額おろしてもらうよう掛け合っていますが、この資料があれば説得力、増しますよ」


その後、間もなくして審査が通ったという知らせが届いた。入金も極めてスピーディーだった。おそらく悪あがきはあってもなくても関係なかったであろう。この融資が速やかに実行されたからこそ、このあと繰り広げられる東京全体の狂騒曲の中で比較的、平静を保てたのだと思う。最も緊張感が増した4月においては日本政策金融公庫も松野さんも僕を絞り上げた時のような面談をする時間も余裕もなかっただろう。むしろもっとイージーに審査はおり、また融資額の増額も見込めたのかもしれない。

けれど、このエピソードにおいて、僕が言いたいのは融資がどうのの話ではなく、「感情」の話だ。僕は松野さんに「つい感情的になってしまって、申し訳ございませんでした」と言ったが、結局、最終的には「感情」でしかないように思える。人を生かすも殺すも、奮わすも沈めるのも感情だ。世界的に見て、新型コロナウイルスが多くの人を殺めているのは事実かもしれないが、では新型コロナウイルスが人と人を分断せしめ、人を陥れてるかと言うとそうではなく、人を分断(分断という言葉は少し仰々しいが)しているのはあくまで人であり、人を蔑んでいるのはあくまで人であり、人の感情だ。そして、人と人を繋ぎとめているのもまた感情だ。


あの日、オフィスからこの路地裏のお店に辿り着くまでに松野さんはどんなことを想いながら、ここまで歩いたのだろうか。そして、彼が眺めたJourney×Journeyは実際のところ、本当に「なんかあったかい隠れ家的なお店」だったのだろうか。


そんなことを想うと、結局、明日も頑張るか…、来年も頑張るか…と、堂々巡る。