Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

<完結編>『J×Jの冒険』への冒険vol40.【沈没と船出】①

2015年の3月28日にレセプションの初日を迎え、それから3日間を最終的な準備期間に充て、予定の通り、翌4月1日、無事オープンに漕ぎつけることができた。ランチ営業から始めた初日、初めてのゲストは2人組の女性だったと記憶しているけれど、気持ちが宙に浮いていたせいかはっきりとは覚えていない。最初のお客様なんて絶対忘れないだろう、と思っていたが、記憶というのは曖昧なものだなあと改めて思う。

 

 

4月1日からの通常営業に関してはまた別の記事で書きたいと思う。ここではそのあたりを割愛し、さらに3日後、4月4日の2回目のレセプションまで話を進める。

 

 

2回目のレセプションでは世界一周中に出会った友人や、直近まで勤めていたお店のスタッフやゲストが来てくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2回目だったし、人数も初日に比べれば少なかったので気持ちに余裕があった。いい具合にみんなと話せたし、飲むこともできた。

 

 

 

 

 

その翌週の11日が3回目となるレセプション。多岐にわたる人たちが来るし、参加者も55人と最も多い予定だった。けれど2回目のレセプションを終えた時点で、まあでも大丈夫だろう、と考えていた。びびることはない、と。

 

 

天王山である11日の前日、4月10日金曜日。この日は普段良くしてもらっている知人の方が貸切の予約を入れてくれていた。お店にとっては初の貸切利用でドキドキしながら早めに早めに準備を進めていた。順調に仕込みと段取りを整えていると、幹事である知人が開始時間よりも早くお店に着いた。

 

 

「大丈夫そう?間に合う?」

 

 

と心配していただいたが、準備は万端だった。そう伝えると、幹事さんも安心して、時間になるまで席に座ってくつろいでいた。

 

 

 

その時、スタッフの加藤が「あっ」と言った。

 

 

 

「どうした?」と聞くが、反応はない。

 

 

次の瞬間、「えっ⁉、えっ⁉」と加藤は足元を見ながら激しく動揺した。慌てふためいているのをよそに大したことないだろうと思いながら、近づいてみると厨房の隅の配水管からおびただしい量の水が噴き出ていることがわかった。一気に青ざめたが、初見で致命傷と決めつけるには早い。水が噴出しているすぐ隣にはバルブがあったので、ここを閉めればとりあえず水は止まるだろうと推測した。

 

 

 

が、止まらない。猛然と、容赦なく、無慈悲に、噴き出し続けている。

 

 

 

どれぐらいの勢いで、どれぐらいの水が出ているかを説明するならば、

 

 

こういったのどかに戯れるようなレベルではなく、

(写真は岡山県倉敷市の児島地区公園の噴水)

 

 

 

 

こういうマジなやつをイメージしていただきたい。

(写真は皇居外苑の和田倉噴水公園の噴水。まあ、これはさすがに大袈裟だけど)

 

 

 

 

原因を究明しようにも水圧がすごすぎて何がどうなってこうなっているか、真相に迫ることもできない。が、加藤は水が噴き出している部分を強引に手で押さえて放水を最小限に抑えようとしてくれている。一刻も早く、このディープインパクトから脱しなければならない。

 

 

けれど、いたずらに動いても仕方がない。水回りの知識について僕は持ち合わせていないし、ましてや自店の水道設備の構造についても全く把握していない。まずは管理会社に連絡を取って、対応について指示を待つしかない。

 

 

 

が、電話に出ない。コール音が猛然と、容赦なく、無慈悲に鳴り続けている。

 

 

 

幹事さんも事態がただならぬものだと察知した。時間は18時26分。パーティーの開始まであと34分。きっと活路はある、と信じていた。何とかしたかった。あと5分ください‼、と思った。けれど、その5分の間為す術なく狼狽し続ける自分を見て、幹事さんは「ちょっと他の店探してくるね」と言ってお店を出た。僕が言うのも変だし、不適切だけど、幹事さんのタイミングは絶妙だったと思う。

 

 

申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、あと自分に何ができるかを考えた。そして、開業の準備を進めているときに店の外にも元栓があることを思い出し、「加藤、ちょっと待っててくれ‼」と外に飛び出し、この蛇口を思いっきり閉めた。

 

 

希望を胸に店内に戻ったが、加藤は下からの滝行に耐えたまま。泣きたくなる気持ちを抑えて、外の元栓の近くにあるマンホールのことを思い返した。もしかしたらと思って、と言うか、ここしかないという決死の想いで、店内からプラスドライバーを取り出し、これを強引にこじ開けようと試みた。

 

 

外では冷たい雨が降っていて、その雨に打たれながら「ここかー‼」と半狂乱の雄叫びとともに、分厚く重たいマンホールを持ち上げた。

 

 

 

 

が、当たり前の話、その先はただの下水道だった。猛然と、容赦なく、無慈悲に、ただの下水道だった。よくあんなプラスドライバーでマンホールが開いたなと、火事場のような馬鹿力に自分でもびっくりしたけれど、マンホールの先に光明があると思った自分の火事場の馬鹿っぷりにはもっとびっくりだ。まあ、「火事場」ではないのだけど。

 

 

 

力なく店内に戻り、加藤に声を掛けた。敗戦を告げる将の気分だ。

 

 

 

 

「加藤、すまん、万策尽きた」

 

 

 

 

ここまで身を売って尽力してくれた彼もまた同様に肩を落とした。

 

 

 

 

「こうなった以上、俺にできることはない。代わるよ」

 

 

 

 

代わりにフロアに出た加藤は店内のおぞましい光景に戦慄した。店内は水深3センチにも及ぶ海原になり果てていたのだ。

 

 

 

 

2015年4月10日金曜日、オープンしてから10日目、Journey×Journeyは沈没した。