Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年4月⑲「貸切」vol2-

1名×16組でもなく、2名×8組でもなく、

「16名×1組を追う」。

と言っても、当然、そのハードルは高い。よほど雰囲気がいいか、あるいは既に名が知れてる店でもない限り、いきなり「貸切をお願いしたいんですけど…」なんていう問い合わせはまず来ない。何も準備せずホームランは打てない。実際に知人以外で初めて貸切のお問合せをいただいたのは、オープンして3ヶ月経った7月のことだった。

カップル客をつかまえたいのであれば、カップル客に喜んでもらえるような仕掛けが必要であるのと同様に、団体利用を獲得したいのであれば、団体客に喜んでもらうためにはどうしたらいいかを考えなければならない。正確に言うなれば、「幹事」が何を求めているかを把握しなければ団体利用にはつながらない。けれど、それより重要なのは「幹事が何を避けているか、何を嫌がるか」だと僕は思っている。そのリスクやマイナス要素を解消すれば需要は自ずと湧き出てくるはずだと見当をつけていた。

幹事が何を求め、何を嫌がるか。自分自身、今までいろんなシーンで幹事をやってきたから、大体はわかっているつもりだ。しかし、その主観が必ずしも自店のターゲット層の心理と一致するとは限らない。商売不繁盛論とも重なるけれど、最初にコケるとそのあとの再訪はほぼ絶望的だろう、貸切の場合、特に。

 

だから当面は前のめりにならず、情報収集と課題の洗い出しに努めた。4月のうちに友人や知人が大人数で予約を入れてくれたので、一般客の前にデモンストレーションできたし(と言ってしまうとちょっと失礼だけど)、とりわけ大きかったのは当時東京駅近くに勤めていた父が父と同世代の方々をたくさん連れてきてくれたことだ。自分と父の世代では求めているものも感じ方も違う。自分が見落としてた自店の弱みがあり、逆に意識してなかった強みがある。そうした気付きの中で、試行錯誤しながら出来る限りでそのズレを修正し、自分の主観を「ならす」ように心がけた。

具体的な修正箇所や改善点(主にメニュー構成や価格設定)などはまた別の記事で書いていくが、このようにして実際に営業しながらフィードバックを積み上げていったのが最初の一ヶ月。けれど、身内利用を通していくら改善しようとも、どれだけ顧客心理を探ろうとも、肝心の一般客が来なければ始まらない。幹事がどうのこうのと言ってる場合ではないのだ。商売不繁盛論も本当に不繁盛のままでは当然、行き詰まる。実際に最初の一ヶ月でディナータイムに来店した一般客はほぼ皆無だった。そもそも、店の存在を知られていない。その状況が続くかぎり、当たり前に誰も来ない。

今まで延々とオープン当初の初動を書いてきたけれど、それは全てディナータイムのことだ。今日はノーゲス、明日は身内が来てくれる、けど明後日もノーゲス、最初のうちはそれでもいいと思っていた。夜は。


序盤、一回の表から三回の裏までは点を取れなくてもいい。

でも、点を取られてはいけない。

ディナーは攻撃で、ランチは守備だと思っている。序盤で守備が崩れるとゲームが成り立たなくなる。



生命線はランチだった。




J×Jの冒険-2015年4月⑱「貸切」vol1-

物件を選ぶ際、最初に考えるのが「立地」で、次に考えるのが「坪数・席数」だと思う。けれども、この坪数・席数は単純に「数」としてその良し悪しを割り切れるものではない。仮に12坪・20席という物件があったとして、重要なのは「12坪」ではなく「どういう12坪か」であり、ポイントとなるのは「20席」ではなく「どういう20席か」だ。

一人客が多い店であればカウンターメインの20席になるはずだし、カップルを訴求したいのであればカップルが好むような12坪にしなければならない。それぞれのお店にそれぞれのコンセプトと営業スタンスがあるはずで、そのイメージが間取りという物理的な事情に阻害されると店にとっても、ゲストにとってもミスマッチが生じる。

このミスマッチを極力少なくし、イメージ通りの営業を展開できるかどうかが店舗運営におけるそもそもの立脚点となる。そして、その立脚点が僕にとっては「正方形」というレイアウトだった。正確に言えば、僕は席の可動性や可変性に重きを置いていて、その性質を最大化できるのが正方形だった、ということになる。

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そして、

店舗コンセプトと僕が望む営業スタンスを前提に、
この立地にある、このスペースの中の、
この席たちをどう埋めるかを考えた時、

「団体利用」をどれだけ増やせるか、ひいては、
「貸切利用」にどうつなげるか、しかないと思った。

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1名×16組でもなく、2名×8組でもなく、

「16名×1組を追う」。

最初からこの針路を持てていたのは大きかった。考えるべきことも、行動すべきことも明確だった。

1名×4組、2名×2組、4名×2組の計16名を目指すとなると(同じ16名でも)、どの属性にも満足してもらえるような店を作らなければならないことになるが、一人客とカップル客が求めているものが同じではないように、それぞれの属性に合わせたそれぞれのアプローチが必要になる。そして、僕にその能力はない。例えば、僕が作るカオマンガイが超一級で一人客もカップルも4人組もこぞってカオマンガイを食べる、というのであれば話は違うけれど、僕はそういうタイプではないし(その腕もないし)、そういう営業をしたいわけでもない。

ただ「16名×1組」だけにフォーカスするのであれば、筋道を描くことができる。描いたシナリオをもとに限られたリソースをその一点に注ぐことができる。団体客が何を望んでいるかを知り、それに応えるように鋭意努力する、それだけだ。

当然、このシナリオはそれなりの弊害をそれなりに生む。一つのニーズに偏重するというのは他の一つのニーズに対して軽薄になるということでもある。それは百も承知で繰り返すが、複数のニーズを同時に満たせる能力は今の僕にはないし、スペースもないし、資本もない。

けれど、「同時に」ではなく「順次」は可能だと思っている。一つのニーズを埋めることは、次の別のニーズを埋める準備が整うということでもあり、自分はそれを目指すべきで、それはきっと自分にもできる。と、思っている。



2017年4月1日、3年目の「そもそも論」。

2017年4月1日。今日からJourney×Journeyは3年目。まずは無事に3年目を迎えることができたことに感謝。日頃ご愛顧の皆様に心より御礼申し上げます。と、よく言うけれど、誠にそう思います。J×Jのドアを開いてくれる人がいる、J×Jの椅子に座ってくれる人がいる、そもそもJ×Jを選んでくれてる人がいる、そういう「そもそも」に、そもそも感謝したい。

同様に、スタッフにも改めて感謝したい。無数にある選択肢の中で、J×Jで働いてくれている。そもそも、J×Jで働いてくれている。もぞもぞと、ありがとう。

たまに頭の中がやけに静かになることがある。そういう時は決まって、お店が混んでる時だ。本当であれば、できるだけ速く正確に、頼まれているものを出さないといけないし、全神経がそれに向かって集中している。当たり前の話、僕も茜も真剣だ。けれど、そういう時にたまに、ふと我に返る。熱せられた神経が水風呂に沈んでいくかのように静まり、僕は目の前の調理から目を離し、客席をちらっと眺める。時間にすればおそらく1秒か、2秒だ。客席ではお客さんが食べたり、飲んだり、しゃべったり、待ってたりしている。

そして、そういう時に改めて思う。「ありがたいなあ」と。今、ここにいる人たちのほとんどは見ず知らずの名前もわからない方々だ。勿論、店を通して仲良くなったり、親しくさせていただいてる方も一部いる。けれども、大多数は友達でも何でもなく、言うなれば「他人」であり、言うまでもなく「お客さん」だ。J×Jはそうした方々の中で選択肢の一つになっている。僕の知らないところで「今日、昼飯、J×Jにしようか」、「今度の送別会の場所、あそこにしといてくれ」みたいな思惑が働いて、そういうわけで今、ここにいる。そういうわけで今、客席で食べたり、飲んだり、しゃべったり、待ってたり、してくれている。店はそうした日常が日常的に積み上げられてこそ成立するのであって、ある意味では当たり前のことなのだけど、その「当たり前」がふと、ぐっと尊い

決まって忙しい時に起こる、その立ち止まる一瞬をこれからも大切にしていきたい。早く料理作れよ、という話なのだけど、多分それは必要な静寂で、多分それは在るべき1秒なのだと思う、僕にとって。

 

世の中には本当に多くの仕事があって、そのどれもが誰かに求められているから存在していて、どんな仕事にも敬意は払われるのだけど、その中でも大仕事と言えるのは「それまでになかった文化を作る」ことだと思う。新しい文化が新しい行動を生み、新しい習慣が形成される。新しい習慣に合わせた新しいサービスが生まれ、新しい雇用が生まれる。ダイナミックに歴史的に見れば、鎌倉幕府大政奉還及び明治維新、一昔前の日本の企業で言えば、ソニーセブンイレブンetc、昨今の世界的企業で言えば、グーグル、アップル、フェイスブックetc。飲食に関することで言えば、例えば回転寿司の登場は革命的で、ハウス食品がミネラルウォーターを売り出したのは当時センセーショナルで、伊藤園によるお茶のペットボトル販売も然り、直近かつ身近なところで言えばラーメン(「つけ麺」とか「二郎」とか)や「立ち食い」の業態(「俺の~」、「いきなりステーキ」、バル)だとか。

などなど、

規模感や影響力はてんでバラバラだけども、「それまでになかった文化を作る」という観点で言えば、どれも当てはまる。


2年前のオープン当初、J×Jに入るおじさんはほとんどいなかった。ランチは女性がほとんどで、たまに女性に連れてこられるおじさんは肩身が狭そうだった。メニューにしても、内装にしても、馴染みのないものには反射的に警戒心を抱く。僕も同じ立場で、この裏路地を道行くサラリーマンだったとしたら、多分、何となく斜に構えて、何となく素通りしてたのではないかと思う。


でも2年経って、その色合いは変わってきた。当初、1:9だった男女比は去年、4:6になり、今年に入って6:4で推移している。女性が減ったわけではなく、絶対数の多い男性の利用が増えてきたことを示している。最近では年配の男性が部下や同僚の若い女性を連れてきて「おススメはガパオだよ」、「この店には生のシードルがあってね」などと紹介してくれている。


エスニック料理や各国料理への敷居が下がってきた世相的な傾向も勿論ある。そうした背景はあるにせよ、今までおじさんたちのパターンになかった「多国籍料理」というのが新しい選択肢の一つとなり、「フォーマルな会はJ×Jで」という新しい習慣を組み込んでいただけてることに感謝とともに、率直に興奮する。ごく限られた範囲の話だけれど、まだまだこれからだけど、「それまでになかった文化」をほんの少しは作れたのではないかという手応えと感触、そしてちょっとだけの自負がある。


気心の知れた仲とわいわいするのは楽しい。「間違いなく確かなこと」だ。けれど、その既成を大切にしながらも、「おぼろげで不確かなこと」に挑んでこそ冒険だと思っている。3年目も引き続き、何となく斜に構えて、何となく素通りしている方々のドアを何となくノックして、彼らにとっての「新しい文化」になれるよう、ハングリーに挑戦してきたい。

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そして、たまにふと顔を上げて、1秒ないし2秒、客席を眺めて、相変わらずの「そもそも」に相変わらず、そもそも感謝したい。


*写真はニッポンを支えるニッポンのサラリーマン、そしてニッポンのサラリーマンに支えられるJourney×Journeyと仕事上がりのスタッフあかね(勤務外であれば風営法に抵触しないはず)





J×Jの冒険-2015年4月⑰「正方形二元論」vol2-

「大人数や団体時に利用したい店」という認識が深まれば、「事前予約」に必然的に繋がる。事前予約が浸透すれば、提供側である店もある程度の売上予測を立てながら、自分たちが持ちうるパフォーマンスをより適切に表現することができる。それだけ慎重を期してもご満足いただけなければ、それは店の力不足として甘んじて受け入れるしかない。が、もし、店の提供内容とゲストの求める水準が合致すれば、ゲストにとって「満足」は「安心感」となり、リピートにつながる。改まって言うようなことではないけれど、店としてはそうしたサイクルを目指していきたい。

仮に、自分が描いたデザインがその通りになった場合、一つのリスクが予見される。


「限られた席をどう振り分けるか」。これが難しい。今までこれに頭を悩ます主体者をいろんな店で目の当たりにしてきた。


同じ坪数、同じ席数でもどういう間取りになっているかで席の振り分け方の案配はまるで変ってくる。

例えば、「12坪・20席」という店があったとする。(都内で、個人事業主が、一店舗目として営業、と考えた場合、広すぎず、狭すぎずの標準的なサイズ感だろう)


店舗①は長方形の間取り。テーブル席もあるが、カウンターのウェイトも高い。

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次に店舗②は正方形のレイアウト。カウンタースペースは縮小し、テーブル席がメインとなる。

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ゲストとの近い距離感やコミュニケーション、もしくはプロフェッショナルな技巧やライブ感を価値やアイデンティティに据えるのであれば当然、店舗①の間取りが適している。けれど、そうでないのであれば、店舗②の方が勝手がいい。ましてや、大人数や団体を取り込んでいくのであればなおさらだ。

店舗①の場合、団体が入るとテーブル席をこう振り分けることになる。

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12名様のゲストを1組。もしくは8名×1、4名×1。勿論、6名×2というのも可能だ。ただし、8名の予約が入ったあと、別の5名以上のゲストをお通しすることはできない(カウンター5名で問題なければご案内できるが)。せっかくお問合せをいただいてるのにも関わらず、ましてや席自体はあるのに、レイアウトの問題で案内できないというのは何とも口惜しい。

一方、店舗②の場合はその問題を解消する。8名を2組、通すこともできるし、

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ご案内できる組数を増やすこともできる。

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極端に言えば、こう振り分けることもできる。

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主体者がどういうスタンスで、どういう営業を実現したいかによって、解釈の仕方は変わってくる。けれど、僕個人としては「空席があるのにも関わらず、案内できない」というのは残念なことだし、物理的にどうしようもないことにせよ、申し訳ないと思う気持ちが先行する。だから僕は、物件選びの際、とかく坪数や席数に目が行きがちだが、それよりも「席の可動性・可変性」の方が重要なのではないかと思っている。限られたスペース、限られた席数の中でその「一席」が帯びる意味は重い。可動的であり、可変的であれば、席の振り分けに苦心することもなく、その駆け引きにストレスを感じることもない。これだけで負担は大分、減る。

このように正方形のレイアウトが孕む「席の可動性・可変性」、「団体や大人数での利用」、「事前予約」という3つの要素は相関的、補完的に結びつき、小さな個人店にありがちな問題を解消する。そして、この補完計画は一つのベクトルを導く。

 

どうすればこの寂しげな裏路地で生き残っていけるか。どうすれば「売上・利益-スタッフ-健康」の3点から成る三角形を広げていけるか。多分、これが最も有効なベクトルであり、今の自分にできうる唯一の活路と言って過言でない。

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J×Jの冒険-2015年4月⑯「正方形二元論」vol1-

自店の強みとは何か。

ずばり、お店の「間取り」だと思っている。

と、前回の記事で書いた。

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物件が決まった後、あれこれ検証して「この店の強みは間取りだなあ」と思ったわけではなく、物件探しの段階から「間取りが強みになる店」以外とは契約しないと決めていた。本格的に物件を探し始めてからまさか一軒目で自分が理想とするレイアウトをしたテナントと巡りあえるとは思っていなかったし、これについてはただただ幸運だったということに他ならない。

お店は正方形のレイアウトとなっている。この「正方形」こそが僕が思う、僕にとっての自店の「強み」だ。

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以前にも書いたけれど、強みは同時に弱みにもなる。正方形もその二元論の中で、表と裏を勿論抱えている。しかし、一定の条件を前提とした場合、その強みは弱みを大きく凌駕する。

「できるだけ事前予約をいただけるようなお店にする」というのが上に書いた「一定の条件を前提とした場合」の一つ。おこがましい言い方になるし、この時点で「ふらっと気軽に入れる」という訴求から遠ざかることになるけれど、総体的に見れば、「一応、予約を入れておこう」という習慣とスキームをどれだけ早急に作れるかが、ゲストの満足度と店側のパフォーマンスの最適化につながるとオープン当初、確信していた。

この立地で店舗運営する以上、コストは最小限にとどめなければならない。予約により事前の来客数が予測できれば食材を無駄にすることもないし、人件費も変動することなく一定に抑えられる。一日の来客数が事前に予測できないまま不規則に増減するのは自店のように人手も、資本もないハリボテにとって危うく、身体的にも精神的にもかかる負担は大きい。第一、自分たちのキャパを超えた来客があった場合、ゲストに迷惑をかけることになる。仮に想定外の売上が立ったとしても、ゲストに対して満足のいくサービスを提供できなければ、その売上も虚しい。そもそもオープン当初の自分たちのキャパなんてたかが知れている。だから、僕は来るとわかっているゲスト(予約客)に対して、ピンポイントで集中する、というスタンスを取りたかった。

どうすれば「事前に予約してもらえるか」は本筋から離れるので、また別の機会に記すとして、話を「正方形」に戻す。一般的に考えて、一人で飲みに行く場合、あらかじめ予約をとったりはしないだろう。二人の場合も少ないと思う。混雑しているのをもともと知っている繁盛店に行く場合か、全く知らない店に行くか、あるいはその店に対して強い目的意識があるか、のいずれかに限られる。これが3人、4人となるとちょっと具合が変わってくる。「一応、電話を入れておこう」という意識が生まれ、人数が多ければ多いほど、当然その意識傾向は強まる。

したがって「事前予約」の構築を目指すということは、「席が取れないほどの繁盛店になる」か、「大人数や団体時に利用したいと思ってくれる店」のどちらかを目標とすることと重なる。お店の主体者が繁盛店を目指すのは当たり前のことかもしれないけど、僕は迷いなく後者を選んだ。繁盛店はしたいと思ってなるものではないし、その方法論もわからない。あるとすれば、それは日々の中で見つけていくものだと思う。でも後者に関しては、ある程度ロジカルに組み立てていくことができるのではないかと考えた。


そのためには正方形のレイアウトはマストだった。「大人数や団体時に利用したいと思ってくれる店」に照準を合わせた時、「正方形」の間取りは強みとなり、また必要十分条件になる。

J×Jの冒険-2015年4月⑮「表裏と強弱」vol2-

「物事に表裏があり、側面があるように、強みと弱みというのも常に抱き合わせであり、一体であると思う。強みを前面に押し出すことによって、同時発生する弱味のリスクを埋められない限り、強みはすなわち弱みになる」

前回の記事において、そう書いた。

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近隣にはない多国籍料理店であること、
主体者が世界一周の経験者であること、
その世界一周の中で食べた料理を再現・アレンジしていること、
「旅/旅行、世界/海外」をコンセプトとしていること、

こうした要件は自店を差別化せしめ、自店の座標を明確にしうるポイントではあると思う。近年の飲食業界全体の風潮がそうであるように、何か強烈なキラーコンテンツを引っ提げて臨むか、一点に特化した専門店として押し出すかが個人店が飽和から抜けるための有効な一手であることは最近の傾向からすれば間違いないだろう。

ただ、それを積極的に打ち出せば打ち出すほど、店はリスクを負うことになる。僕が多国籍料理店をやるということは多国籍料理に興味のない人からの選択を失うことになり、僕が旅や旅人だけをフォーカスするということは、その照準に重ならないゲストの来店を遠ざけることになる。

「とがる」というのはその分、形状が固定化されるということでもある。尖れば尖るほど、研ぎ澄まされていく斬れ味とともに柔軟性をスポイルすることにもなる。この点をどう考えるかは主体者の意向と判断に委ねられると思う。自分が望む在り方とアプローチで、自分が望むバランスをとるのが主体者の仕事だろう。シーソーの右と左に何をどこにどう置くか、絶妙なものを目指していくためには絶妙な配置が求められる。

最も懸念すべきリスクは軌道修正の余地を失うこと。尖らせていくことで、融通と応用がきかなることが怖い。僕はそういうことをそういうふうに考えるタイプだ。

だから、冒頭に上記した要件は必要以上に押し出さないことにした。それらは自店のアイデンティティではあるが、自店の「強み」は別のところにあると思っていた。正確に言えば、「より汎用性のある強み」が自店にはあると確信していた。

 

ずばり、お店の「間取り」。


これが一番の強みだと思っている。それ以外はゴルフで言えばアイアンや、パターのようなもので適宜、適所で活用すればよく、一打目でまず手に取るべきドライバーは僕の今までの経験やパーソナリティではなく、「お店の作りそのもの」だと思っていた。ドライバーで遠くへ飛ばし、アイアンで適切に距離をつめ、パターでホールに沈める。僕がJ×Jの間取り、レイアウトを上手に訴求することができれば、多国籍、世界一周、旅、世界といったワードもより強くゲストに届き、より確かにお店をアイデンティファイするはずだと想定していた。さすれば、最小のストロークでホールをまわり、次のラウンドに移ることができる。


では、どうすればその「強み」を最大化できるか。


 

 

J×Jの冒険-2015年4月⑭「表裏と強弱」vol1-

話が行ったり来たりしてしまって、ブログがややこしいことになってしまったのだけど、ここでいったん元の軌道に戻そうかと思います。

去年の9月から12月まで、「商売不繁盛論」と題して、オープン当初、自分がお店の運営をどのように考えていたのかを書き続けた。書き上げるのに約3ヶ月かかったけれど、「商売不繁盛論」は自分の基本姿勢なので、できるだけ丁寧に、そして慎重に、形にしておきたかった。

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この商売不繁盛論は独立に際して思い立ったものではなく、飲食経験の中でじっくりと培われてきた。本格的に飲食業に従事したのは26歳からだけど(と言っても大手チェーンの居酒屋だけど)、アルバイトを含めれば18歳から携わってきたし、その中で実に様々なお店で働くことができた。僕が数店舗での経験しかなかったとしたら、それなりのスペシャリティを磨くことはできたかもしれないけど、おそらく商売不繁盛論には至らなかったと思う。

2000年 千葉のビジネスホテル内にあった中華ダイニング
2003年 神保町の居酒屋、神宮のビアガーデン
2004年 東京駅構内の居酒屋
2009年 地元の大手居酒屋チェーン、千葉のエスニックレストラン
2010年 地元の大手居酒屋チェーン、地元のフレンチレストラン
2011年 地元の大手居酒屋チェーン、地元のお好み焼き屋さん
2012年 世界中で出会った世界中の飲食店(客として)
2014年 秋葉原のトラベラーズダイニング

それぞれのお店に学ぶところがあり、自分には不向きであると思うところがあり、と言うか、そもそも無理だろ、ということが多々あり(資金及び技術面で)、そんな自分が生き抜くためにはどうすればいいかを長い間、黙々と考え続けた。それぞれのそれぞれを抽出してパッチワークのように繋ぎ合わせてできたのが「商売不繁盛論」で、ここから先はその「商売不繁盛論」という理論や哲学の「実践」となる。


要は「売上・健康・従業員」の最適化のために最初から焦らずゆっくりいこう、という話なのだけど、そのゆっくりの中で何をするかが大事なわけで、一つはお店の弱点を潰していくこと、もう一つはお店の強みを活かせるような仕組みを作ること。身動きがとれるうちにこの2点に対して集中して取り組む。それもまた商売不繁盛論の本懐の一つだった。

 

オープンしてから3年の間で3~5割のお店が潰れるとかよく聞くけど(この数字の信憑性も疑わしい)、生き抜くお店は何らかの強みやキラーコンテンツを持っている。


まずは自分の弱点を理解し、逆に強みを見出す。そして、それを知ってもらう。そこさえクリアすれば、「骨格」は形成され、店としてある程度たくましくなる。逆に3年以内に骨格を形成できなければ潰れる。そう思っていた。


では「強み」とは何か。


例えば、多国籍料理店であること。


確かに差別化のポイントとして見れば、強みとも言える。けれど、同時に弱味でもある。多国籍料理であるからこそ選ばれる時もあるかもしれないけど、多国籍料理店であるがゆえに選ばれないこともある。おそらく自店の立地を考えれば、後者の方が多い。


物事に表裏があり、側面があるように、強みと弱みというのも常に抱き合わせであり、一体であると思う。強みを前面に押し出すことによって、同時発生する弱味のリスクを埋められない限り、強みはすなわち弱みになる。


そう考えれば「多国籍料理」だけでは100%の強みには成り得ない。ここに美味しさや接客が加わったとしても同様だと思う。そういうことじゃなくて、僕はもっと別の場所に自店の強みを据えていた。



【2017年嵐を起こすのかメニュー】提供開始のお知らせ

1月3日のフジテレビ『嵐ツボ』の放送から早一ヶ月。

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この放送を見て来店されたゲストのほとんどは「番組で紹介していたメニューが食べたい」とおっしゃられます。まあ、当然の話です。でも、あれは「2017年絶対に流行る 日本ほぼ未上陸グルメ」として世界一周中に食べた1165皿の中からランキングしたものであって、お店のメニューから選んだものではないのです。

ゲストに尋ねられる度に気まずい回答をする自分。最近では気まずさを通り越して、罪悪感すら覚えるようになりました。

この罪の意識から逃れるための手立てはただ一つ。自ら作るしかないのです。

というわけで、ご紹介した5つのうちの4品、自店で開発しました。自分が現地で食べたものを完全に再現してるものではないけれど、味自体はかなりニアなところまで寄せることができたのではないかと。また「作れる」ことと「オペレーションに乗せて提供する」ことは同じではなく、この点をどう克服するかも課題だったのだけど、色々と工夫して(若干強引に)、通常メニューとして提供する段取りもつけることができました。

それでは「2017年嵐を起こすメニュー」、順にご紹介していきたいと思います。まずは第5位のタイの「ムーガタ」。 

f:id:journeyjourney:20170203154719j:plain出鼻を挫くようですが、こちらは調理器具と設備の問題で断念。でも近いうちにタイから直接取り寄せようかと考えてます。コースメニューの中に「ムーガタコース」を組み込むのも面白そうだな、と。


第4位のボリビアのパパ・レジェーナ。

f:id:journeyjourney:20170203155106j:plain番組内では「南米発のコロッケ革命」と説明しましたが、これはほんとになかなかの革命だと思ってます。このコロッケ革命をJ×Jで表現すると、こんな感じ。

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写真では何が何だかよくわからないけども、この衣のないコロッケと野菜サラダの取り合わせがけっこういけます。ここからさらにぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて、召し上がっていただきます。

 

続いて、第3位の「ポジョ・コン・モーレ」はメキシコのスパイシーチョコレートチキン。アメリカとの国境の街ティファナの食堂で食べたモーレはこれ。

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モーレは現地の味に近づければ近づけるほどキツくなるので、お店で提供するモーレはベースを残したままちょっと柔らかめに仕上げています。

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第2位、トルコのミディエ・ドルマムール貝の中にピラフを詰め込むという斬新さ。提供する側としてはその斬新さよりも、仕込みの大変さに意識が行きます。下記、写真の後方を見ればわかるように山のようなムール貝に、山のようなピラフを詰め込んでいく必要があるのです。

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僕がミディエ・ドルマ屋さんであればいいのですが、多国籍料理店ゆえ、ミディエ・ドルマだけに時間をとられるわけにも行きません。そこで考えたのが、

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こういったパエリアのようなスタイル。本場のミディエ・ドルマと同じような味付けで米とムール貝を一緒に炊き込んでいます。おススメはスプーンではなく、貝殻でピラフをすくって食べるスタイル。お好みでレモンを絞って、ムール貝と一緒に食べればぐっとエキゾチックに。

最後に、第1位。オランダで食べた塩漬けニシン「ハーリング」。実際にオランダで食べたのがこれで、

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提供するのはこちら。

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見た目は限りなく実物とイコールです。勿論、お店でお出しするハーリングも美味しいですし、美味しいからこそ提供させていただくのですが、正直に言うと、僕がアムステルダムで食べたハーリングはこの美味しさをはるかに凌ぎます。

築地に朝届いた魚をその日に捌いてその日に提供するお店の魚が美味しいように、このハーリングにも同様のことが言えます。美味しいハーリングスタンドは生のニシンを塩漬けにして一日寝かして、翌日に提供します。このタイミングこそが旨味を最大限に引き出すポイント。そして、ニシンの旬は初夏で、この時期もっとも脂がのります。僕がアムステルダムで食べたのも解禁したての5月。なので、僕が食べたハーリングハーリングの中でも抜群のものを食べたのだと思います。

そうとは言っても、このハーリングの魅力を最大限に引きだすために色々と試行錯誤しました。付け合わせの玉ねぎの切り方、相性のいいピクルス、レモンを絞った方がいいのかどうか、オリーブオイルはどうだろうか、など、このシンプルな料理にも工夫の余地はあります。J×Jを通して、ハーリングの美味しさを伝えていきたいのです。

 

以上4品がこれからJ×Jで提供する「2017年嵐を起こすメニュー」です。「嵐を起こす」と嵐の皆さま及び不特定多数の視聴者の前で言い放ちましたが、放送から一ヶ月経った今(2017年の12分の1が過ぎた中)、このメニューたちが嵐を起こす気配はありません(弱気)。

なので、これより「嵐を起こすメニュー」改め「2017年嵐を起こすのかメニュー」として(弱腰)、J×Jにて提供してまいります。皆様のご来店、心よりお待ち申し上げます。

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【その他のお知らせ】

2017年度の採用活動を始めています。

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あかねの「将来の不安」への冒険-香港ラウンド後編-

香港の中心部で本格中華を堪能したのち、九龍に移動。日本で言うところの六本木というか、豊洲というか、それをどちらも兼ね備えたかのような九龍。惜しみないセレブリティが惜しみなく溢れていた。

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僕たちをアテンドしてくれた友人はこのエリアに住んでいる。そのため、普通は立ち入れないマンションの敷地にも入ることができた。香港の夜景を余すところなく独占できたのも彼のおかげだ。

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そして、初日のハイライト。この九龍の一角にある「リッツカールトン」へと向かう。僕は一度だけ六本木にあるリッツカールトンのバーに連れて行ってもらったことがあるのだけど、それはまあラグジュアリーでして、超一流たちが醸し出す超一流の静寂の中で、アラブの王族のような方々が葉巻をくゆらせてるわけです。香港もそんな感じかと思いきや、

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 と、意外とカジュアル。このオゾンというバーは最上階の118階にあるのだけど、下の階にもバーがあるようで、そっちのほうはもうちょっと落ち着いたラウンジだそう。


しかし、まあ、ゴージャス。

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そして、まあ、浮く。

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けれど、あかねにしても、僕にしても、こういうラグジュアリーな世界とは無縁で過ごしてきたので、いい機会だった。カクテル一杯に3,500円だなんて、派手に羽目を外さない限り、手が届かない。


そして、翌朝。占い大国「香港」の総本山、黄大仙(ウォンタイシン)へ。

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これまた、あかねにしても、僕にしても、占いだとかの世界とは無縁なのだけど、これはこれでいい機会だと思い立った。あかねも24歳というムーディーな年齢。将来に対して不安の一つや二つあるのは当たり前。

自分は何をしたいのか、

自分らしさとは何か、

自分はどういう人間になりたいのか、

わりと真面目に生きてれば、誰もが通る青春の門。そして、多くの人がくぐれないまま右往左往する青春の門。僕自身もそんな人間の一人で、あーでもない、こーでもないとうろうろしながら、そういう漂流もまた一興、と自分の都合のいいように解釈してるわけだけど、それをあかねに伝えるのはなかなかに難しい。あかねは確固たる「ピンとくるもの」を強く求めている。僕の説法はあかねにあまり響かないし、仕事は仕事であって、確固たる「ピンとくるもの」には該当しないようなので、ここはひとつ、プロの見立てと意見を聞いてみようじゃないか、ということで占い師を訪ねてみた次第だ。

 

香港人と「占い」の結びつきは強く、その中でも道教寺院である「黄大仙」は人々に厚く信仰され、毎年300万人が参拝に訪れると言われている。

週末ということもあってか、この日も境内はごった返していた。

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香港スタイルの参拝に戸惑いながらも、見よう見まねで手順を進めていく。

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どこか心細げだが、できるだけ忠実に。

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この竹筒を振って、出てきた棒に記載された数字をメモする。

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その数字を持って、占いコーナーへ。何軒も並んでいるので迷うところだが、どの占い師を選ぶかはインスピレーションだろう。色々覗いてみた結果、

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日本語がわかり、かつ、ミーハー感のない(日本の芸能人との写真などが軒先に飾られていない)地味めの占い師を選んだ(営業妨害になりかねないので、どの占い師に占ってもらったかは特定しないようにする)。

その占い師に先程の数字を渡す。占ってもらう内容はずばり、「恋愛」と「仕事」だ。

番号と生年月日に沿って、占い師は日本で言うところの「おみくじ」のようなものを取り出した。このおみくじにあかねの向こう一年が書かれているというわけだ。


ちなみに、このおみくじが指し示すのは向こう一年であり、それより先のことはわからない。「ソレヨリサキノコトハワカラナイネ」と占い師は言う。「モットサキノコトハ手相ヲミナイトワカラナイネ」。勿論、手相を見てもらうためには別途料金がかかるし、その額はわりと跳ね上がる。なるほど、ミライにはお金がかかる。


とりあえずは向こう一年で十分だろうということで、まずは「恋愛」。

 

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当然、何が書いてあるか、何を意味しているのかはわからないので、それを占い師に読み解いてもらう。「これはこれを意味してて、あれはあれを指していて、つまりはこういうことで、スナワチ…」。



「ヨクナル」と占い師は言った。


言語の壁と、理解への努力の問題だとは思うけれど、説明と経緯はよくわからなかったが、最終的には「良くなる」と。


続いて、「仕事」。

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昔、何とかっていう王様がいて、争いが絶えなかったのだけど、どうのこうので、あああだこうだで、最終的には丸くおさまって、つまり、まあ色々あるけれども…


「ヨクナル」と。


なんならこの占い師さん、おみくじに平仮名で「これから前よりよくなる」って書いてくれてますからね。


帰路、「何だか物足りないですね」と茜がぼやくのに対して、「もっと詳しく知りたいのならお金を積みなさいってことだ」と世知辛いコメントをすると、「世知辛いですね」と彼女は答えた。


「あかね、恋愛は?」

「良くなる」

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「じゃあ、仕事は?」


「良くなる」

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「なら、いいじゃないか」



「そうですね…」



この日も精力的に香港を観光した。飲茶を食べ、エッグタルトを食べ、タイマッサージを受け、アルゼンチンステーキを食べ、ネパール人がメキシコ料理を出すパブでベルギービールヒューガルデンを飲んだ。飲茶以外は全て外来種だ。けれども、この出鱈目な無国籍感こそが香港の本質であると思うし、それを味わうのが香港の醍醐味なのだと感じた。


飲んだ帰りに交差点でインド人同士が何やら楽し気に話していた。その様子を見て、あかねは確固たる「ピンとくるもの」の一端を垣間見たようだ。作家村上春樹神宮球場で野球観戦をしている時、ヤクルトスワローズのデイブ・ヒルトン選手が二塁打を打つのを見て、「よし、小説を書こう」と思い立ったと言う。何がどこでどうなるか、というのはわからないものだ。



彼女がインド人から得た着想が今後どのように冒険していくかは定かではないし、それはまた別の物語だけども、挫けないかぎり、きっといい方向に向かうだろう。



「これから前より良くなる」だろう。

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あかねの「将来の不安」への冒険-香港ラウンド前編-

あかねは去年の春からJ×Jで働いている。ジョインから数ヶ月経つが、このブログではほとんど触れたことがない。あかねがどんな女の子で、どんな経緯でJ×Jで働くことになったのか、そして、どのような日々をJ×Jで過ごしているのか、それはまた改めて別の機会に詳しく書くことにするが、端的に言うなれば、とにかくファンスティックな女の子で、ファンタスティックな経緯を経て、ファンタスティックな日々を過ごしている。主体者の立場からすれば、それで苦労するところもあるけれど、それよりも楽しませてもらっている部分の方が多い。歩くファイナルファンタジー、僕はあかねのことをそう思っている。



今回はそんな彼女の冒険の一部をトリミングし、先んじて綴ることにする。が、前もって言うと、この物語に特にオチはない。ぬるい温度感の中、ぬるいリズムで進む。最後まで読み終えたとしても、ぬるい読後感しかないのだけど、その「ぬるさ」こそ、この話のポイントだし、あかねらしさでもある。


「海外/世界」、「旅/旅行」をテーマにしている以上、年に一回くらいは海外に行きたいと思っている。プライベートとは別に、店として、社員旅行のような感覚で行きたい(この先人数が増えたらわからないけれど、今のうちは航空券代くらいは工面して)。年末戦線が過ぎると、多くの飲食店はしばらく閑散期に入る。事業所立地の店舗はとりわけ暇で、ましてや路地裏の店は悲惨だ。というわけで、去年は2月にタイに行ったけれど、今年は1月の三連休を社員旅行にあてることにした。


行き先についてはいくつかの候補が上がる中、香港に決めた。予算は限られているので自然と近場になるし、香港には大学時代の友人がいる。時間もタイトなわけだし、自分たちで探索するよりも彼にコーディネートしてもらったほうがより有意義だ(バックパッカー魂は引き出しの奥に眠っている)。そして、何より、僕も茜も行ったことがない国、というのが香港を渡航先に選んだ一番の決め手だった。


6日の金曜日の営業を終えたのち、そのまま店に泊まり、7日の早朝のフライトで香港へ。到着後、市街地まで電車で移動し、友人と合流。予約しておいたホテルに荷物をおろし、香港観光へ。


まずは香港の名物とも言える雲呑麺。雲呑の中に海老がぎっしり詰まっている。

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雲呑麺を食べたのち「ビールを飲もう」ということになって、バーへ。15時に雲呑麺、そして16時にバーでビール。このあたりの無軌道感がいかにも旅行らしくていい。

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ビールが五臓六腑につたっていくのと同時に、全身から力が抜けていくのをありありと感じた。11月中旬から1月7日まで全力疾走で、ずっと気を張っていたけれど、この瞬間、散りばめられた電源を片っ端からオフにし、ガスの元栓を閉め、勢いよくシャッターを閉めた。


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友人にはあちこち案内してもらったし、香港の魅力をたっぷり堪能させていただいた身でこう言うのも恐縮だが、この瞬間が今回の旅行の中で最も印象深い。全身を湯船につけた時に感じるような心からの安堵。


その後、改めて香港の市街地に繰り出す。まずは上からの百万ドルの夜景「ヴィクトリアピーク」。

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ぶらぶらしたあとは、

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香港の本格中華の数々。

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青椒肉絲。

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坦々麺。

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この旅のMVF(Most Valuable Foods)はエビチリ。空前絶後。

 

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ご満腹の、ご満悦。

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と、ここまでは全くの食道楽。ひたすらの食い倒れ。


が、全ての物事に表と裏があるように、この笑顔の裏にも秘めれるものがある。先日、あかねも24歳というわりとムーディーな年齢となり、間もなく社会人3年目を迎える。世の理も朧げに見えてきて、今まで気にしてこなかったことも次第にリアリスティックな輪郭を帯び始めた。こうした時、


自分は何をしたいのか、


自分らしさとは何か、


自分はどういう人になりたいのか、


という門が立ちはだかる。




その青春の門をノックするために、彼女は海を越えた。




黄大仙(ウォンタイシン)。占い大国香港の総本山。


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明日、我々はここに向かう。