2月初旬、僕と内装担当のハヤカワは現調のため、高崎へと向かった。真冬に『真夏の夜の夢』を聴きながら、遠目に見える富士山を眺め、北へと走った。
高崎に到着したのは16時。高崎は東京より寒く、盆地であるがゆえ、とても強い風が吹いていた。ほどなくクライアント様と合流し、さっそく現場調査スタート。
引き渡し時点での店内はこのような様子。設備としても、作りとしても特に大掛かりなものが必要とされるような気配はなく、そのまま引き継いで使えるものも多くあるように思えた。実際にクライアントからの依頼は技術的にも、予算的にも現実感のある内容だったし、ハヤカワも「いけます」と僕に言った。
施工そのものは問題なかったとしても、ネックになるのは東京-群馬間という物理的な距離となる。クライアントの実家が店舗のすぐ近くにあり、住居として使用してない「離れ」があり、そこを使ってくれて構わないとおっしゃっていただいた。その言葉に甘えられるのであれば、施工期間中の移動時間を節約するとともに経費も抑えられる。
ただし、それは納品までの話であって、そこから先に何かあった場合にフットワークが重く、小回りがきかないという事実は変わらない。僕自身もそうであったが、それは不安で、心細いことであり、厳然たるマイナスポイントとなる。この決定的な課題を克服するのは容易なことではないのだけど、どうすればその土俵に上がれるかを考え、そのためにいくつかの工夫と提案を用意していた。
その一つは外装工事の提案だった。現調の前段階の打ち合わせにおいて、クライアントのお二人は外観については「暖簾にこだわりたい」という意向があるだけで、他のことにはほぼ触れていなかった。ただ外観の写真を見るに、造作を工夫するためのスペースはあるように思えたし、新規出店及び前テナントとのイメージチェンジを図る上で最初に注目されるのは外観となる。ご提示いただいた予算の中で内装にかかるコストを抑え、その一部で外装まで施工できるとなればアドバンテージになりうるのではないだろうか。
一つの業種に限ったことでなく、全ての営業において言える基本だが、差別化するためには「どれだけの相手の期待値を上回れるか」を追求していくしかない。提示された100に対して、100で返すようであれば、それはもう単なる価格競争に持ち込む以外に手段はないが(あるいは持ち込まれるしかない)、それを120でリプライできるのであれば新しい可能性が模索できる。
上の写真のようにいくつかのパターンを用意して、現調及びそのあとの打ち合わせの際に外装工事を提案できるように準備していた。同時に、内装のイメージも提案。
そうした状況下での現場調査及び2回目の打ち合わせとなった。当然この時点では受注できるかどうかはわかってはいない。