高崎に現調に行ってからはクライアント様からの連絡待ち。決まれば初めての大型案件になるが、はたしてどうなるだろうかと少しそわそわしていた。けれど、決定の連絡までそう時間はかからなかった。
「施工は群馬の業者さんにお願いしようと思っております」
やはり…、残念…、そう甘くない…。
「けれど、 ハヤカワさんにご提示いただいたデザインを僕たちはすごく気に入っていてですね…、差し支えなければデザインをお願いしたいと思っておりまして…」
おおおお…、これは「受注」じゃないかと昂った。ただデザインを起こすのは自分ではない。はやる気持ちを抑えて「わかりました、ありがとうございます。ちょっと確認しますのでお時間いただいてもよろしいでしょうか」と返答した。
まるっと受注、ではなく、一部を任せていただく、というパターンも一応、想定はしていた。勿論、施工全体をお任せいいただくことを念頭に置いてはいたのだけど、デザインやファサードを提案することによって、その部分の造作(大工仕事)を担当できないだろうか、などのシミュレーションはあった。そうした運びになれば東京-群馬間の往来は最小限のピンポイントに抑えることができ、双方にとっても経費の削減につながるというメリットがある。
ただやはり工事全体のスケジュールがあるので、進行が二元的になると全体の流れが悪くなるのは否めない。そうした事情もあり、今回はデザイン・設計のご依頼ということでクライアントの中で着地したようだった。
「それははじめてのパターンですね…」とハヤカワは言った。ハヤカワにとって、自分がデザインしたものを他の人の制作に委ねるという経験はなかった。逆に言えば、ハヤカワがヒアリングに基づき、頭の中で思い描いたことがそのまま価値となり、仕事となるという初めての機会でもあった。
その後、いくつかのパターンを提示しながら交渉を続け、
最終的には「デザイン」+「設計」+「ロゴ制作」の3つをお任せいただけることになった。J×Jの内装業を始めて8か月、今までにない、よりクリエイティブ色の強いよりクリエイティブな仕事に挑戦することになった。