Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

「やらなきゃならないことをやるだけさ」。

2号店「Box round」の壁は映画のチラシで埋め尽くしている。学生時代、映画研究部に所属していて、その時の部室(ボックス)に倣って、2号店の壁面も同じようにした。オープン当初は時間がなくて、映画のチラシを取り扱っている神保町の書店に見繕ってもらってまとめて購入。だから貼ってある映画の全部が好きな映画というわけではないし、一部、見たことのないものもある。

 

落ち着いてから改めて書店を訪れ、3時間くらいかけて約50枚を厳選した。その作業は2017年に行った全ての業務の中で最もエキサイティングで、最も楽しい仕事だったかもしれない。膨大な枚数の中から(おそらく万単位の在庫がある)、大好きだった映画を抜き取るのは「旧友との再会」に似ていた。「おまえ、あの時、ああだったよなー」なんていう昔話に花を咲かせてるみたいな心地になった。

奥の4名テーブルに側面に貼ってあるチラシの中で、最下段の横一列はとりわけ親交の深かった旧友たちだ。『スワロウテイル』、『ニューシネマパラダイス』、『あの頃ペニーレインと』など、青臭い少年だった自分にとっての憧れであり、拠り所でもあった。その中に『アイデン&ティティ』という映画がある。

アイデン&ティティ』はみうらじゅんの原作コミックを田口トモロヲが初めてメガホンをとり、宮藤官九郎が脚本を担当、主演は銀杏BOYSの峯田和伸が務めている。バンドブームに乗って、メジャーデビューを果たし、デビュー曲はヒット、売上もファンも増えたが、その一方で「自分のやりたい音楽」と乖離していくことに苦悩する。「本当のロックとは何か」と葛藤し、「本当のロックとは何か」を模索する、ストレートな青春映画と言える。

「やりたいことをやろうぜ」というスピリットが全編にわたって描かれていて、当時20代前半だった自分にとって、奮い立たせられる内容だったのだけど、それだけでは他の多くの青春映画同様の位置づけの中で収まっていたと思う。最下段の中央に貼られることはなかっただろう。

 

この映画の中で最もインパクトが強かったのは、ラストシーンのライブ会場で中島(峯田)が観客に放つ一言だ。ありがちな「やりたいことをやろうぜ」感全開でストーリーが進んでいく中、中島の最後の台詞は、

 

「やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ」。

 

そして、ボブ・ディランの名曲『ライク・ア・ローリングストーン』ともにエンドロール、という流れ。この展開と転回に唸り、僕の中で今でも生き続ける映画となり、今でも生き続ける言葉として、刻まれている。

 

「やりたいことをやろう」なんて、言うまでもない当たり前のことのように思える。ここは日本であって、紛争地域ではない。ましてや今は2017年だ。農家に生まれれば農家になるしかない、という時代は150年前に文明開化とともに終わったのだ。やりたいことがあってもできないのは、あるいはやらないのは、「やりたいことよりもやらなきゃいけないことを優先させている」か「他の何かのせいにしているか」の2つしかない。

作中の「やらなきゃならないことをやるだけさ」にネガティブなニュアンスはない。「本当にやりたいこと」というのは段階を経て、自分にとって「やらなきゃいけないこと」として昇華されるはずで、その領域のことを指しているのだと解釈している。いわゆる一流と呼ばれる人たちは「やりたいことをやってる」という意識を飛び越えた場所で、自分がやらなければならない役割を果たそうと努めているのではないだろうか。イチローが「自分はやりたいことをやってるんです」という意識でプレイしてるとは到底思えない。アスリートだけでなく、芸人であれ、政治家であれ、一般会社員であれ、飲食店店主であれ。やらなきゃいけないことをやってる人は強い。母は強し、と言うけれど、本当にそうだと思う。

 2017年は「やらなきゃいけないこと」を整理して、整理した分、増えた一年だった。

かつての「やりたいこと」は少しずつ、「やらなきゃいけないこと」へと移ろい、

2018年は見渡す限り、やらなきゃいけないことだらけだ。でもそれでいい。その分、きっと新しい地平が見えるはず。自分の想像を超えた冒険が待ってるはず。

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 2017年の最終営業日のランチは茜が作った鶏肉とカブのインドカレーで、ディナーのコース料理の〆も茜が作った鶏肉とカブのインドカレーだった。J×Jがその一年で最後にお出しする料理が茜の一品になるとは思いもよらなかった。そして、茜が作るそのカレーは俺が作るカレーよりもずっと美味しい。来年も想像を超えていきたい。

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 一年後はどうなっているだろう、とわくわくできるのはハッピーなことだ。そんなハッピーをもたらしてくれるスタッフとゲストに心から感謝。

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 というわけで来年はやらなきゃならないことをバリバリやって、店としての地力をバリバリに固める一年にしたいと思っているのだけど、最後にもう一つ、個人的な目標を立てるとすればバリバリに「遊ぶ」こと。

 

世界一周で365連休をとったから、当面は休日返上で取り組んできたけど、あれから5年経ってそろそろペイしたかな、と。とにかくひたすら働いている。とりわけこの一年はとにかくひたすら働いた。やらなきゃいけないことだけやって、あとは胸張って遊ぼうと思う。来年はどうぞ一緒に遊んでください、よろしくお願い致します。

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