僕の友人に無類のラーメンフリークがいる。とにもかくにもラーメンが好きで、飲んだ後の〆にラーメン、そこから飲み直し、〆ラーを食べたことを忘れ、朝方2度目の〆ラーを食べてしまう、そんな逸話を持つほどに彼はラーメンをこよなく愛している。
彼曰く、
「新規の店には3回行くようにしてる。お店の良し悪しを判断するのはそのあとだ」。
この発言は「最初の一回で断定するのは早計である」ということを意味している。「それが俺なりのラーメンとラーメン屋に対するリスペクトだ」と彼は続ける。
みんながみんな彼のように飲食店に対して寛容であれば、飲食業界の未来もそう暗くはないだろう。
けれど、現実はそう慈悲深くはない。3回どころか1回目の来店を導くのも困難で、実際に来店経験のあるゲストの評価で敬遠されるのであればまだしも、Web上の点数だけで選択肢から外されてしまう、というのが向き合わなければならない現実だ。
カテゴリー②「身内」。彼らは最初だからと言って、温かく見守ってくれるだろうか。多少の粗相は大目に見てくれるだろうか。お店に3回のチャンスを与えてくれるだろうか。
いや、そんなに甘くないだろう、というのが僕の見立てだった。初回にNGが出れば、一般のゲスト同様に2回目のチャンスは巡ってこない。それぐらいの緊張感で臨むべきだし、そうであってこちらに不利なことはない。であれば、「身内」に関してもカテゴリー①「近隣住民や会社員」とスタンスを同じく揃えることになる。オープニングに合わせて一気呵成に営業するのではなく、まずは様子を見ながらコンディションを整えることに集中する。
そうした意図に基づき、レセプションパーティーを3週連続の3日間に分けた。初回は3月28日、2回目は翌月4日、3回目は11日、全日土曜日。年度末、新年度は往々にして忙しいものだし、加えて「お花見」という行事が重なる。一年の中で日程調整をするのが最も難しいシーズンの一つだろう。
けれど、一週間ごとの3日間となれば「参加意思はあるが日程が合わないため行けない」という状況は回避できる。参加意思をお持ちであれば、3日間のいずれかで来ていただけるはずだし、「行くのであれば知り合いがたくさんいて、ワイワイできる方がいい」と考えるのが多数派だ。まずはレセプションに来ていただき、お店の場所とお店の雰囲気を認知してもらう、というのを優先させた。
前もってレセプションに参加することが既定事項であれば、別途、他の通常営業日にも行こうだなんて奇特な方は少ない。「お店、オープンしたみたいだけど再来週レセプションに行くからその時でいいよね」、「レセプション行ったから通常営業に行くのは落ち着いてからでいいよね」と思う人がほとんどであり、それが望むところでもあった。カテゴリー①のゲストに対して何も仕掛けず静観し、身内であるカテゴリー②がレセプションでのご来店に集中すれば、他の通常営業日が閑散となるのは当然であり、自然だった。事実、10日も経たないうちにノーゲスになった。が、その閑散としてる間に体勢を立て直し、営業開始とともに次々と浮き彫りにされる無数の課題をモグラ叩きのようにスピーディーに潰していく。全力疾走しながらではそれがなかなかできない。お客さんがいないのは当然つらいけれど、自覚している問題に手をつけられないまま、消化不良の営業を続けるのもそれはそれでつらい。
レセプションに参加される約150人(50人×3日)のうち、2度目の来店が見込めるのはざっくり3分の2といったところだろう(今のところ、実際それくらいだ)。その「2度目の来店」が一ヶ月先だろうが、半年先だろうが、一年後だろうが、今よりもいいコンディションでお迎えできるのであれば本望だったし、逆に言えば2度目を与えられてもなお、こちらがゲストを満足させることができないのであれば、僕の力量がゲストの基準に届いていないという単純な問題となる。
ラーメンフリークの僕の友人は「新規の店には3回行くようにしてる。お店の良し悪しを判断するのはそのあとだ」と言う。繰り返すが、皆がそういう哲学を持ってくれれば、飲食店の生存率は今よりも多少改善されるだろう。これに対し、僕は150人のうち、2度目の来店があるのは100人、3度目の来店があるのはさらに3分の2の66人、と試算し、これを目標とした。3度目から4度目に関してはその減少率は緩和されるものだと認識している。4度目があるということはそのゲストの中で自店は生きた選択肢になっており、営業努力を怠りさえしなければ、自然とリピートしてくれるはずだ。
オープニングにどれだけの友人や知人に来ていただけるかはその人がそれまでどう過ごしてきたか、によると思う。けれど、2度目以降は過去は考慮されず、「今」が問われる。オープニングに多くの人に来ていただくのは勿論大切なことだし、嬉しいことだけど、それよりも重要なのは1度目の時点で2度目の来店の導線を引き、2度目の来店の際に1度目よりもクオリティを上げ、3度目への来店動機に繋げること、であるように思える。友達はちょくちょく飲みに来てくれるさ、と楽観できるほど僕はもう若くない。僕の友人たちの多くも同様で、それぞれがそれぞれを抱えるいい歳をした大人だ。それなりの理由がそれなりにないと来店は見込めない。
もっとも、
店の立地が良く、繁華街にあって、駅近で、集まりやすく、常にかわいい女の子が飲んでいて、店内はノリノリで、イケイケで、あるいは僕がイケメンで、カリスマ性があって、成功者で、そこまでいかなくても会話が超絶面白いとか、もしくは料理の腕前が一流だったり、万人を唸らせるキラーコンテンツがあるとか、そういう感じであれば違うやりようがあったかもしれない。
けれど残念ながら、僕はどれも持っていないし、どれにも該当しない。
自分にないものを背伸びして手に入れようとするのではなく、
自分に持てるものをこねくりまわしてをどうにかする、の方が楽しい。僕は。