Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

百姓「山本ジャーニー」のジャニーズ「嵐」への冒険

「のぶあきおじさん」(仮名)は僕から見て4親等(多分)にあたる、いわゆる「親戚のおじさん」の一人だ。今は故郷である山口に帰省する機会をあまり持てていないし、帰ったとしてもどうしても時間がタイトで、ろくに挨拶にも伺えていない。早くお店を落ち着かせて、このあたりの慌ただしさを改めたいと思ってはいるが、とにかく、僕は「のぶあきおじさん」とすっかりご無沙汰だ。

なので、僕は今の「のぶあきおじさん」を語ることはできない。昔のままかもしれないし、昔とは一転しているかもしれない。ただ今、ここでスポットライトを当てたいのは25年前の「のぶあきおじさん」であり、25年前の「僕」だ。


この『百姓「山本ジャーニー」のジャニーズ「嵐」への冒険』は25年前の山口まで遡り、2016年12月のお台場を経て、2017年1月3日の秋葉原に至る。


幼少期の僕に映る「のぶあきおじさん」はとにかくよく飲む人だった。自分含め親族一同、皆、大酒飲みなので珍しいことではないのだけど、その中でものぶあきおじさんは突出していたように思える。正月や、お盆は朝起きて、顔だけ洗って、そのまま缶ビールのプルトップを引く、そういうレベルだ。僕も飲む方だけど、寝起きビールの領域には未だに辿り着けていない。


僕がおじさんに挨拶に行くのは決まって正月かお盆の帰省中だったので、飲んでるイメージが色濃く、素面の残像はなく、そもそもノンアルコールのおじさんを僕は知っているのだろうかと疑わしいほどだ。


そんな「のぶあきおじさん」だが、「大酒飲み」に加え、がっちりとした体格で、声量も大きい。多少口は悪いが(おじさん、ごめん‼)、ガンガン喋り、ガンガン飲み、白も黒も一緒くたにしたユーモアを派手にばらまいて、いつもまわりを笑わせる。そして、自身もまた「ガハハッ」と大笑いしながら、また酒を飲む。何と言うか、とにもかくにも豪快なのだ。


普段は厳格な父もおじさんと飲むときはとっても楽しそうだったし、なかなか見れない一面が見れたりして、子供ながらにその時間がけっこう好きだった。同時に、おじさんのそのただならぬ豪胆さは桁外れの迫力を放ち、小学生の僕を圧倒し、威圧した(勿論、おじさんにそんな意図はなく、僕が一人でビビッていただけだが)。


そんなある日、両親に外せない用事があったのか、初めて僕と弟だけで「のぶあきおじさん」に挨拶に行くことになった。「もうお兄ちゃんなんだから、K(弟)を連れて、挨拶に行ってきなさい」みたいな具合で。僕はマジか…、と戦慄しながら、弟を連れて、恐る恐る大魔神の居城を訪ねた。


缶ビールを片手に「ガハハッ」と現れたおじさんは、弟の頭を撫でながら「おお‼よく来たな、ジャニーズ‼」と言った(弟は僕とは正反対で、ジャニーズ顔のイケメンなのだ)。僕は魔神にいい子いい子されるジャニーズを誇らしげに眺めていた。なんだ、全然大丈夫じゃないか、僕たちだけでちゃんと挨拶できるじゃないか。ガハハッ。


 

「で、お前は何しに来た、百姓」



魔神が振り下ろした斧は僕のハートを一刀両断に引き裂いた。



 

今思えば、やっぱりおじさんは面白いよなあと思う。「ジャニーズ」とのコントラストに「百姓」かあ、とそのワーディングのセンスに惚れ惚れする。これが例えば「不細工」だったりしたら、全然シャープじゃない。この鋭い切れ味は出ない。


と、今では思うけど、思春期手前の僕にはそれなりに刺さる一言だった。この一件は僕の心に刻まれ、その後、好きな女の子が森田剛の下敷きを持っていたり、掌にマジックで「堂本光一ラブ」と書かれているのを見る度に、僕は劣等感に苛まれる羽目になった。

 

 

f:id:journeyjourney:20170101232559j:plain




時は流れ、2016年12月。タクシーの車内、レインボーブリッジの先に見える球体を眺めながら、「のぶあきおじさん」のことを思い浮かべていた。





百姓の尊厳と意地を胸に、ジャニーズへの冒険が始まった。


f:id:journeyjourney:20170103191843j:plain

 

しかし、僕の断固たる決死行はあっというまに緊張に支配された。加速度的な緊張は走馬燈となって、過去をフラッシュバックさせた。

 

f:id:journeyjourney:20170103192320j:plain




初めてお店にゲストが来た時のことや、

 

f:id:journeyjourney:20170103192404j:plain



世界一周に旅立った日の空だとか、

f:id:journeyjourney:20170103192436j:plain


女の子に初めて告白したあの夏の日の駐輪場だとか(フラれた)、

f:id:journeyjourney:20170103192517j:plain

 


今までの半生において経験したありとあらゆる「緊張」が頭の中を駆け巡り、

f:id:journeyjourney:20170103192745j:plain

 


僕は「無」になった。

 

f:id:journeyjourney:20170103192818j:plain

 

 

「無」になった。

 

 

f:id:journeyjourney:20170103192953j:plain



緊張は限界値を超えると「無」に還るということをこの日初めて知った。

 

 

f:id:journeyjourney:20170103193231j:plain





2016年12月31日。僕は久しぶりに「のぶあきおじさん」に電話で話した。



「わしゃ、そんなこと言うたんか。覚えとらん、ガハハッ」。


と、言っていた。相変わらずの、のぶあきおじさんが僕は好きだ。




最後に。


この冒険は多くの方々のご協力とご理解の上に、奇蹟的に成立したものです。何かがほんの少しでもずれていれば実現しえないものでした。関係各位に心から感謝します。


そして、今回は25年前の「のぶあきおじさんと僕」を軸に据え、物語を展開したけれど、いつかまた、時間を置いて、この冒険がいかに奇蹟だったかを描きたいと思ってます。

 

そのためには百姓の尊厳と意地を胸に、コツコツとした日々をコツコツと積み重ねていくしかない。



さすれば、こんな日もやがてめぐる。



自分の世界一周がこんなふうに取り上げられることになんて夢にも思わなかった。深夜のデニーズで一人、あのアルバムを作りながら、その「意味」を自問自答していた自分に言いたい。



「全ての可能性はオープンだ」。



*写真は放送直後、僕の真似をするスタッフ茜とお昼寝から起きる中華屋のおじさん。

f:id:journeyjourney:20170103193457j:plain

 

 

全ての可能性はオープンだ。