7月1日。2018年、早くも折り返し。
早いなあと思うのはいつもいつものことだけど、1月1日、4月1日とならんで、7月1日はなんだか背筋が伸びる一日。一年の折り返し地点ということもあるけれど、7月1日ほどソリッドに新しい季節の訪れを告げる日付はないんじゃないかと思う。浜崎あゆみはかつて『July.1st』という歌を歌った。やっぱりパワフルな日付なんだろう、7月1日。6月1日や11月1日を歌にしてもピンと来ないだろうし、つまりは売れなそうだ。
というわけで、夏だ。ちなみに僕はあまり好きではない、夏。昔、あれだけ楽しみにしていたのが嘘みたいだ。
若者たちがギラギラな夏にギラギラと繰り出していくように、J×Jでも本日より新しい取り組みが続々と始まります。上半期に仕込んでいたものがここからどんどん芽を出していく予定です。すくすくと伸びるように、大切に育てていかなければなりません。この猛暑の中、枯らすわけにはいきません。2号店や間借り3号店含め、今まではどちらかと言うと、ディフェンス重視の考え方で進めてきましたが、ここからはよりオフェンシブに展開していきたいと考えております。「ここまでならできるだろう」の領域から、「ほんとにできるのか?」の領域へのシフト。夏に繰り出す若者たちはワクワクしてるかもしれないけれど、僕はけっこうビクビクしてます。でもまあどこかでアクセル踏まないとなりません。今です、July.1st。
スケール大きめのことから、わりとコンパクトなものまで色々試していくのだけど、その一つ一つはおいおいアナウンスしていくとして、今日は先日、ゲストに言われた一言について紹介したいと思ってます。今後、お店を運営していく上での重要なことだと僕は認識してます。
先日、「というわけで店、変えようかなとも思ったんですけど、まあ、いいや、ここで、ってことになりました」と貸切の幹事様に言われました。ごく一般的に考えて、わりとキツめな言葉です。
その幹事様はリピーターのお客様で、ちょいちょい歓迎会や打ち上げでうちを使ってくれます。今回は中国の方のスタッフを大量に採用されたということで(幹事様自身も中国の方。日本語堪能)、新しいスタッフさんとの親睦会とのことでした。「和食は自分でも食べてるだろうし、かと言って、洋風なところに行くのもあれなんで」というのがJ×Jを選んだ理由。僕としては嬉しいかぎりです。
いつもは大体時間通りに来る幹事様が当日は30分前に店へ。何だか落ち着かない様子で店内を見回す幹事さん。どうしたんだろうと思いながらも、黙々と仕込んでいると、「いや実はですね」と幹事さんの方から切り出してきた。
「いや実はですね、今日の会に急遽、副社長も来ることになりまして…」
と言われ、ドキッとした。幹事さんは日本を代表するような超大手のメーカーに勤めている。日本経済を動かしてる一員の一人と言っても過言ではない。重役や重鎮の方々がふとしたきっかけでたまたま来ることはあっても、そこまでは大物はそうそうない。
そうした文脈の上で、
「というわけで店、変えようかなとも思ったんですけど、まあ、いいや、ここで、ってことになりました」
と、幹事さんに言われた。僕は思わずあからさまな苦笑いを浮かべてしまった。
ただならぬ緊張感の中で始まったその親睦会だったが、取り立てて大きな問題もなく、スムーズに終わった。日本のスタッフも新しく加わった中国のスタッフも副社長も思った以上に気持ちよくお召し上がりいただいた。
「まあ、いいや、ここで」。
これってネガティブなことじゃないよな、と洗い物をしながら思った。と言うより、今回のケースで言えば、むしろポジティブなことだし、安全圏にいるということの裏返しでもある。副社長のことを抜きにして、フラットに考えてみたとしても、むしろJ×Jの目指すべき在り方なのではないだろうか。
先週はアフガニスタンの方が15名来店された。日本人含めて20人の貸切。
「肉類は勿論、玉子もNGですが、お魚はいけます。それでコース組むことできますか?」と予約時にお問合せをいただいた。「できます」と答えた。
また別のお客様からは「ヨルダンで一緒に仕事した取引先との会食なんです。タブーリってサラダを入れてもらえることできます?」とのご要望。「できます」。
「メニューの半分はベトナム料理で…」「できます」。
「イタリアンのアンティパストのみでオードブルを…」「了解」。
「W杯にちなんだ…」「やりましょう」。
「I wanna eat Japanese traditional food」「Sure」。
ランチの常連さんの中で一人、肉も魚もNGな方がいる。インドか、スリランカか、わからないけれどおそらく南アジアの方だ。
来るとわかっていれば用意しておくことはできるけど、ランチなのでそうもいかない。他のゲストも待たせている中で、その方だけ特別な対応をするのは正しいことなのか、判断が難しいところではあるけれど、僕としてはやはり対応してあげたい。何故なら、J×Jであればそれが「できる」からだ。
「絶対あそこがいい」とおっしゃっていただけるのであればそれは勿論、嬉しい。でもそれを突き詰めた先にあるのは特定の人のニーズに応えた限定的な店になってしまうような気がする。それもまた店の在り方の一つではあるけれど、僕が目指したい姿ではない。
南アジアのゲストだけでなく、他の多くのゲストの方々も「なら、まあいいや、ここで」、「だったら、そこでいいよ」、「じゃあ、あそこでよくない」という心理の上でJ×Jを選んでくれているのだと思う。僕の仕事は「なら」と「だったら」と「じゃあ」の範囲を広げ、「まあいいや」の質を高めることだ。
ランチのピーク中、彼に提供するベジタリアンメニューが定まらないまま、先におしぼりを出したことがあった(いつもは前もって決めてから、「これでいいか」?と確認する)。「ごめん、ちょっと考えるから時間もらっていい?」と言うと、彼は、
「Anything OK.I trust you」
と言った。嬉しかった。
これからJ×Jが目指すのは、「まあいいや」の質を高めること、
そして「you」ではなく「yours」にすること。
そう思っている。