Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年10月「アイエーイーエー」-

オープンして半年、2015年10月。

前回投稿したように、他店舗や他業態と掛け合わせて、表現やパフォーマンスの幅を広げ、店として遠心力をつけようと奔走する一方で、店舗内のオペレーションに関してはある程度落ち着いてまわせるようになっていた。

ランチに関して言えば、目標とする客数を大きく上回ることもあったけれど、反対に落ち込む日の下げ幅が痛烈で、平均でならすと目標には全然届いていなかったし、ディナーもディナーで思い描いたイメージとは程遠い場所にいた。そうとは言っても、ルーティンに関しては何も考えずに短時間でこなせるようになっていたし、その分、他のことに時間を充てられるようになっていた。僕も、スタッフKも。その中でゲストの来店に対し、いつも受け身にまわるのではなく、もっと積極的にゲストについて理解、把握しようと姿勢を転じてくことを決めた。

例えば、ランチ。それまでは今目の前にいるゲストの方々がどの会社に所属しているかもわからないほど後手であった。会社がわかったとしても、オフィスがどこにあるかもわからず、そのオフィスがどれくらいの規模なのかも当然知りえない。そのゲストはいつも何時に来ているのか、何人で来ることが多いのか、食事そのものにどれくらいの時間をかけるか、食後にコーヒーは飲むか、来店から退店までどれくらい滞在するか。一人の時はどうか、複数で来る時はどうか。パクチーは好きか、嫌いか。毎回残さず食べるか、否か。

そのあたりの「情報」が事前に頭の中に入っているか、入っていないかで提供側の気の持ち様やオペレーションも変わってくる。つまりは楽になる。まずは首からさげた会社のストラップをよく観察することにした。

そうすると、同じ色の同じようなストラップでも全然別の会社であったり、また母体が同じ会社でも子会社や部署が別だと違う色をしていたり、新デザインのストラップをかけている人もいれば、古いもののままを使用していたりと、自分がいかに思い過ごしや思い込みが多かったかを知ることになった。

ある程度習慣化されてくると、特に意識しなくても自然と知覚するようになる。あ、この人たちは大きい交差点を渡って来てる人たちだから早めに出そう、だとか、あの人たちはすぐそこの会社できっちり一時間休憩を取るから食後のコーヒーはもうちょっとあとでいい、だとか、常にそんなふうに細々と考えてるわけではないけれど、そうした情報と経験の蓄積がいざという時にけっこう役に立つ。

そんなある日、2週間に一度のペースの男性1名、女性3名の4人のお客様がご来店。全員わりと年配だ。気になっていたので、Kに「お会計の時、ストラップちょっと意識してみて」と促した。退店後、Kに聞いてみると、

「いや、ちょっとよく見えなかったんですけど、多分、アイ、エー、イー、エーですね…」とKは言った。

「アイ・エー・イー・エーか。よくわからないな…。いやでもちょっと聞いたことあるような…」

「ヤマモトさん、知ってる会社ですか…?」

「いや、なんだっけ…、会社じゃなくて…、あ!!いやでもそりゃないわ」

「なんなんですか?」

「K、調べてみなよ、アイエーイーエー」

「あ、はい…」

携帯を取り出し検索すると、


「ヤマモトさん、国際原子力機関って書いてありますけど…」

 

「だな。アイエーイーエーはIAEA国際原子力機関。インターナショナル・アトミック・エネルギー・エージェンシーの方々がこんな路地裏にカオマンガイ食べになんかこないしょ。まあ同じ名前の全然別の会社があるのかもしれなけど、多分、Kの読み違えでしょうよ。にしても、Kはやっぱセンスあるなー、国際原子力機関だって、ウケる」


その2週間後、

 

彼らのストラップにIAEAと書かれているのを僕もはっきりと見た。間違いなく彼らは「IAEA」に所属している。

「K、疑ってすまなかった、あの人たち、IAEAだ」

調べてみると、東京地域事務所が飯田橋にあることがわかった。近いと言えば近いが、こんなところにまで来るなんてありえない。と言うか、そもそも「国際原子力機関」って感じじゃない。牧歌的でピースフルな印象で、彼らが常日頃、原子力と相対しているとは思えない(勿論、牧歌的でピースフルなIAEA職員だってそりゃいるだろうが)。

さらに調べてみたが、お店の近くにIAEAの事務所や支社がある様子はない。かと言って、同じ名前の別の会社がヒットするわけでもない。

その後一年くらい、2週間に一度のペースでご来店し続けてくれたが、その後ピタっと来なくなった。来なくなったのか、いなくなったのかもわからない。


そうした情報と経験がいざという時にけっこう役に立つが、

 

時にただただ余計な混乱を招く。

 

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