ランチに関しては前回記事に書いたように、価格やボリュームを調整しながら適切なポイントを手探りしていた。
ディナーについてはちょうどこの頃に本格的にメニュー制作に取り掛かっていた。勿論、メニューはあったのだけど、アイテムを極力絞り込んでいたし、落ち着いたらすぐに練り直そうと思っていたので、作りも極めてシンプルなものにしていた(と言うより、ほとんどがコース利用だったというのもあって、手が回らなかった)。
5月にはすっかり暇になっていたし(GWの影響もあるが歴代過去ワーストの売上はこの5月だ)、ある程度覚悟していたことでもあるので、上記メニュー含め追いついていなかったことや、浮き彫りになった課題に取り組んでいた。
一方、当時一緒に働いていたK(今はもう退職しているのでKとする)も働き始めてから一か月が経ち、少し落ち着いていた。そして、少し落ち着いてきたからこそ出てくる悩みもある。GWにはまとまった休みを作ってリフレッシュしてもらったのだけど、連休に入る前に「実際に働いみてどんな感じか」ということをしっかりヒアリングした。
彼の口から出てきたのは「みんな、しんさん、しんさん言って、おもろないですわ」ということだった。簡単に言えば「もっと目立ちたい」、と。東京に友達がいるわけでもないのに、Kという名前はすぐさま浸透して、人気者になっていた。僕からすれば、やっぱりすごいなKは、というのが最初の一か月の感想だったし、そう率直なところを伝えたのだけど、彼は納得いかない様子だった。
「そういうことじゃないんですよ、ヤマモトさん抜きで、もっとこう、俺にフォーカスが当たるような感じで」
「じゃあ、自分でイベント立てて、自分でやってみなよ」
「え…」
「それ以外即効性のあるアプローチある?ないでしょ。わかりやすいし、いいじゃん、イベントで。飲食経験のないKがオープン直後にイベントやるって言ったらちょっと面白いよ。決まりで」
「え…、マジすか」
Kがあからさまに強張っていくのが見て取れる。もっと言えば、あからさまに怖気づいていくのがわかる。
「でもイベントってどうやったらいいんですか?」
「イベントをどうやるか、よりも、どんなイベントにしたいか、じゃない?」
この時点では僕もそのイベントがどんなものになっていくか、見当がつかなかった。Kが早々にそんなことを言い始めるとは思わなかったし、イベントはもっと先に打つものだと考えていた。
最初の一年はもともと「自分がお店をはじめたら、これをしたい」とあらかじめ用意していたものを順々に表現していった。それがうまくいったかどうかはともかく、ほとんどは前々から構想されていたものだ。そうした中、このイベントは想定外だったし、その想定外がJ×Jのコンテンツとして定着していくことになるとはこの時思っていなかった。
Kがこの時口走った不満は「イベント」として形となり、そのイベントは「ラウンド」として遠心力をもって継続されていくことになる。そしてその遠心力が多方にわたり、好影響を及ぼしていった。僕はKが漏らしたいささか青臭い不満に、今、とても感謝をしている。