Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年8月「電気代問題」-

2か月ぶりに通常更新。なかなかブログを進められず、歯痒く思っているが、コツコツと地道に書き進めていきたい。

オープンから5か月目、2015年8月。この時点で厄介な問題が2つあった。1つは「近隣問題」、もう一つは「電気代」。電気代というのは非常に切実で、クリティカルな問題だと思う。自分のような個人事業主が初めて自分のお店を持つという時、その物件の電気料金や、契約がどうなっているかまでなかなか頭がまわらないのが実際のところではないだろうか。

僕自身、これについてまったくノーマークで(恥ずかしいことに)、初めて請求書が届いた時、戦慄した。4月の電気代が5万。4月は初月だからしょうがないだろうと思っていたが、5月の請求も同様の金額だった。夏場は一体どれくらいになってしまうんだろう、と戦々恐々としたのを今でもよく覚えている。

約14坪、26席で5万というのは一般的に見て、けして高すぎるということはないのだけど(当時、サイトで調べたところ)、かと言って、当然安くもない。オープン当初ということもあって、電気の無駄遣いにはとりわけ敏感だったし、よく聞く節電対策はすでに講じていた。今思うとおぞましいけれど、どれだけ暑かろうが、休憩中エアコンは切るようにしていた。

売上に応じて経費を調整できる「変動費」と違って、飲食店において電気代は「固定費」に該当する。営業時間が同じであるかぎり、時期によって多少の変動はあるにせよ、決まったコストが決まって発生する。売上が悪ければ悪いなりに工夫することができる経費がある一方、電気代についてはどうにもできないので、その点が電気代の切実かつ、クリティカルな部分となる。反対に言えば、ここに対策を講じることができれば、それはそっくりそのまま経費の節減に直結する。

当時は電力自由化の前で、お店でできる抜本的な対策としては「LEDへの変更」ぐらいしかなかった。3年前、LEDが全体の市況の中でどのように位置づけられていたのか、僕自身あまりピンとこないけれど、少なくとも今よりは普及されていなかったし、けっこう高いイメージだった。長期的に見れば安くおさまるれど、初期費用はかかる。この天秤をどう考えるか、暑い店内で汗を滴らせながら考えていた。これは僕が初めて直面した、いわゆる「経営判断」案件だったかもしれない。

ちょうどそんな時、業者から営業の電話がかかってきた。「うちのサービスを使えば電気代、けっこう安くなりますよー」というノリで、「月々の電気代、教えてもらっていっすかー??」とその営業マンは言った。タイムリーな事案だったので藁にもすがりたい気持ちだったが、結局、このノリは怪しいとたっぷりのバイアスをかけて、お断りした。

数日後、知り合いの先輩オーナーと電気代の話になり、業者を紹介してくれることになった。その会社は先日電話をかけてきた会社と同じだった。先輩が紹介してくれた業者さんにも関わらず、それでも訝しく思いながら構えていると、イメージとは打って変わって、百戦錬磨を思わせる落ち着いた感じの営業マンが現れた。名刺には「所長」と書かれていた。「所長さんも現場で営業とかされるんですね?」と聞くと、「Aさん(先輩オーナー)とは私が若い頃からの付き合いでして。Aさんからのご紹介とあらば、自分で行こうと。それに私、今でも現場が好きなんですよねー」と所長は言った。

この会社はLED事業とは別にもう一つ「節電事業」を展開していた。一般に、中規模の飲食店であれば「従量電灯」の他に、「低圧電力」(動力)という2つの電気契約を結ぶ。この2種類の電力の相関性が同業者の節電事業のポイントになるのだが、説明しはじめると長くなるので割愛する(と言うか、僕自身あまりわかっていない)。

もともとはLED交換だけのつもりだったが、説明を受けながら、所長が提示するもう一つの対策にも興味を持った。ただし、初期費用で60万程度かかる。勿論分割もできるが、分が悪い。現金一括の方がどう考えてもリーズナブルだ(所長は月々のお支払いの方を勧めていた)。こんなこともあろうかと思って開業資金はある程度余力を残してある。それをまわせば済む話だけれど、それにしても60万は切実だ。でも所長の言うように、本当に月々2万程度抑えられるのであれば2年と半年でペイできる。さて、どうしたものか。

ギリギリまで交渉して、結局、抱き合わせのLED交換の料金を抑えてもらい、提示金額よりも抑えた値段で契約した。

5万前後だった電気料金は2万5千程度に抑えられ、夏場も3万前後。オープンして3年経過した今だからこそ言えることでもあるけれど、オープン間もなくのあの判断は賢明だった。さらにLEDに変更したことによって、店内(特に厨房)の温度上昇の大幅緩和にもつながった。変更前はまさに灼熱であったが、今はそこまで過酷なことにならない。当然、その分、エアコン代も浮くことになる。

さらに言えば、所長とコネクションを作れたことが大きい。信頼できる専門業者とつながりを作るというのは店舗運営においては不可欠で、特に電気まわりの問題は自力ではどうにもならないので、いざという時にこれほど心強いことはない(その後、何回か電気系統のトラブルがあったが、その度に当所長ならびに業者さんに助けられている)。

その後、電力(の小売り)自由化を受けて、様々な企業が進出している。現時点においては個人事業主にとってハルエネでんきがいいとか、先々を考えれば東京ガスとのセットがいいとか言われているが、今後、この業界がどうなっていくのかよくわからない。が、先述したように、「電気代」ほど動かしがたく、また工夫の余地のない経費もそうはないので、何も着手していないのであれば、何か手は打つべきだし、市場の動向は逐一チェックしていたほうがいいように思える。