Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

【嵐ツボ】第3位「トルタ・アフォガーダ」への冒険

先日、メキシコ中部のハリスコ州で17歳の青年が殺害された。友人たちとバーでパーティーを楽しんでいたところに武装集団が青年を襲撃、15発もの銃弾を浴びせた。青年はメキシコ国内で有名なユーチューバーで、麻薬カクテルのボスを揶揄した動画を投稿していた。襲撃の原因はその動画にあるとされている。青年は即死した。

また、メキシコ本土の西海岸と並行するように細長くのびるバハ・カリフォルニア半島では橋から宙吊りにされた6人の遺体が発見された。これも麻薬カクテルがらみの事件とみられている。

といったように、メキシコではアウトレイジ全開の事件が多発している。それはそれで事実ではあるのだけど、かと言って、一般旅行者がそうした血生臭さを感じるシーンは少ないように思える。少なくとも僕自身はそのような危うさを体感することはなかった。メキシコは極めてピースな国だった。


僕はアメリカの西海岸サンディエゴから陸路でメキシコに入国し、国境の町ティファナに数日間滞在した。陸路での国境越えはそれまでも何度も経験しているが、サンディエゴ-ティファナ間ほど「むこうは別の国である」という当然のことを知らしめられる国境線は少ない。街ゆく人の出で立ちは変わり、英語はぴたりと通じなくなり、建ち並ぶビルや家の様相はがらっと変わる。とりわけ、飲食店が一変する。

当たり前のことと言えば当たり前なのだけど、国境線を超えると、そこはもうメキシコで、とにかくタコス屋さんばかりなのだ。タコス、タコス、そして、タコスだ。

けれども、タコスと同じくらいに「トルタ」と書かれる看板も多く見かけることになる。「トルタ」というのはメキシコでサンドイッチ全般のことを指すのだが、このトルタ屋さんも非常に多い。

トルタには実に様々な形状とスタイルがあり、中に挟む具材も多岐に渡る。安くて、美味しいのはタコスも同様だが、利便性という点ではトルタが勝る。移動の多いメキシコ旅行において腹持ちがよく、気軽に食べられるトルタは貴重だ。実際に、国境の街ティファナからバハ・カリフォルニア半島をバスで30時間かけて南下したのだけど、この間、食事はほぼ「トルタ」だった。

メキシコ滞在中、多くのトルタを食べたがその中でも最も印象的だったのが第3位に取り上げた「トルタ・アフォガーダ」。番組内でもご紹介したとおり、下半分をスープにつけた半身浴サンドであり、「食べやすさ」に関してはこのトルタは該当しない。が、美味しい。スープの染みたパンとサルサで和えられた具材のマッチングが絶妙なのだ。

トルタ・アフォガーダはメキシコ中部の街グアダラハラの郷土料理としても知られる。グアダラハラハリスコ州の州都で規模としては首都メキシコシティに次いで2番目に大きく、マリアッチ(メキシコ音楽を演奏する楽団)やテキーラの発祥の地としても有名だ。

西部の真珠と呼ばれるグアダラハラの街並みは美しく、歴史的な建造物も多い。街の中心に位置するソカロ(広場)には何をするでもなく、人々が集まり、家族連れもお年寄りもカップルもそれぞれが思い思いの時間を過ごしている。この国で先にあげたような凶悪な事件が起きているとは到底思えない。石畳の道に馬車が心地よい蹄の音を鳴らし、正装したマリアッチが陽気なメキシコ音楽を奏でている。


そんな溢れんばかりの異国情緒の真ん中でトマトスープが染みたトルタ・アフォガーダにナイフとフォークを入れる。蹄の音が響き、マリアッチが弾み、パンは真っ赤に染められ、僕はメキシコに魅入られていく。半身はアウトレイジを警戒してもいいのかもしれない、旅行者に油断は禁物だ。でもけしてそれだけではない、もう半身はメキシコという国の魅力にすっかり身を委ねてみてもいいのではないだろうか。

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まあ、大野さんには「別々で食べたい」と言われ、松本さんには「パスタで食べたい」と言われてしまったけれどww