Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年4月⑳「踊れ、おさら大捜査線」-  

今まで延々と書き連ねてきた内容はほぼ全て「ディナー営業」に焦点を合わせている。ダイニングバーの形態をとる以上、売上構成の多数を占めるのはディナータイムでの売上になるし、当然かけるべき比重は昼よりも夜に傾けられる。そして、どうすれば思い描いたように売上を作れるか、が今までの長い話であり、同時に、そう簡単には思い描いたように売上は作れない、というのが前回の話になる。

「ランチタイムで認知を広め、ディナータイムの来店に繋げる」というのは一般的な飲食店の一般的な正攻法であり、僕(J×J)も正攻法という帆を張り、一般論という風に乗って、船を進めることにした。だけど、ランチでの集客をいきなりディナータイムに繋げようとは考えない。畑を耕すようにまずは土地をならすことが大切で、その素地を作る。ディナーのために、ディナーのことは当面放置し(逆説的になるけれど)、初期においてはランチに集中する。ランチを軌道にのせることが目下の課題であり、これを3ヶ月以内に仕上げることを目標とした(オープンからカウントして6月までにランチ営業を安定させる。そうすればディナータイムへの誘導にも自ずと繋がるだろう、と)。

ところが、この目測は甘かった。今思えば、という回想録であり、結果論になるけれど、ランチにおける初動は僕が犯した失敗のうちのまず最初の一つだろう。結論を言えば、この誤算によって「3ヶ月以内に安定」という目標の達成は大幅に遅れ、一年先まで遠のくことになった。この失敗について、これから順を追って、掘り下げていきたい。

僕がランチにおいて強くこだわっていたのは「お皿」だった。2人という最小人数で12時~12時半という短い時間に集中して来店されるゲストをスピーディーに対応するためには、「ワンプレートで完結するお皿」が不可欠だと考えていた。大きさの違うお皿を使用したり、複数のお皿に分けて提供すると作業効率がぐっと下がる(と言うより、作業量がぐっと上がる)ということは今までの経験の中で身をもって思い知らされている。勿論、ちゃんとしたトレイに主菜、副菜、ご飯、スープと分けられて供された方がゲストの満足度が上がるのは明らかだ。けれど、そうすることによって提供時間が長くなることもまた明白。これを解決するにはシンプルに言って「人手」なのだが、そうすると当然人件費はかさみ、価格を上げなければ釣り合わない状況になる。お店の方針として「効率よりも内容を高めたい」と考えるのであればそうした営業に徹するべきだが、自店の場合、①全く目立たない裏路地という立地、②ただでさえ敬遠される店構え、③そもそも馴染みのない多国籍料理、という3つの問題を解消し、敷居を下げ、まずはとにかくの認知を目指さなければならない。であれば、デザイン性は最初から見切りをつけ、機能性を追求するのが賢明だと判断していた。そして、そのための第一項は「お皿」だった。極めて、物理的に。

食洗器があればまた話は違うのだけど、それがない場合、どういう皿を使用するかは思いのほか、重要だと僕は考えている。ランチタイムにおける僕らの仕事の主たるは当然、「ランチメニューを適正な内容と価格で、適正なスピードで提供し、適正な環境で召し上がっていただく」ということに尽きる、が、実際はそれを準備するための時間があり、それを片付けるための時間がある。ゲストの「適正な満足度」を第一としながらも、同時に考えなければならないのは自分たちの「作業量」をいかにして適正にするかだ。「仕込み」の時間をどう考えるかはそれはひとえに作り手の熱量と哲学に委ねられるが、そうではないところは極力削ぎ落した方がいいと考える。どれだけ準備に時間をかけているか、あるいはどれだけ片付けが大変か、という部分はよほどのロイヤリティがない限り、ゲストには意識されない(もっとも、掃除がどこまで行き届いてるかは見られるところではあると思うけど、洗い物の所要時間なんてゲストの知るところではない)。ゲストの目に触れられる部分であるからこそ重要であるのと同様、そうでない部分はそうでない部分でまた切実であり、真剣でなければならない。僕は切実に、そして真剣に、洗い物の時間を短くしたい。

同じものを同じように出しているにも関わらず、お皿によって片付けに15分かかる、逆に15分短縮できる、という違いは長期的に見ればシリアスだ。15時にまかないを食べ始めるのと、14時半にはリラックスできているのとでは全然違う。ランチから営業する飲食業の一日は長い。少しでも体を休める時間を確保しなければならないし、勿論、(時給換算のアルバイトを雇う場合)その誤差30分が生む人件費の蓄積は甚大だ。

というわけで、オープン前、悲壮の決意と並々ならぬ執着を以って、ランチプレートの大捜索に乗り出したが、理想とするプレートに巡り会うことはなかなか叶わなかった。あっても値段が高い、微妙に大きい/小さい、重すぎる、ちゃちい、スタッキングできずかさばるなど、ドンピシャを見出せず、閉口していた。

そんな最中、別件で立ち寄った雑貨店で見つけたのがこれ。

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ドンピシャとまでは言わなくとも、85%ほどの一致度。価格も当初の想定の約半額程度に抑えられる。開業資金を切り詰めてやりくりしている時分にこの差額は大きい。




2017年6月現在、今でもこのプレートを使用している。総合的に見てこれを選んで正解だったと思うし、イメージしたとおり、提供も片付けも短縮できている実感がある(それでもゲストの入り方によってはお待たせしてしまっているんだけど)。一方、このプレートが抱えている問題点も把握している。けれど、メリットとデメリットを天秤にかけた時、今なおメリットに軍配が上がる。



冒頭にあげた「ランチの失敗」というのはこのプレートによるものではない。


だが、因果関係はある。