Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの冒険-2015年4月⑪「商売不繁盛論」vol11-

ゲストとの「距離」と「距離感の質」を模索し続けてきた結果、2016年11月現在、「あかね覚書」として一つの形になった。あかね覚書とは簡単に言えば、スタッフあかねによるお客様ノートで、店内で得たゲストの情報を記載したものである。好き嫌いなどの単純なものから、適切なボリュームや、嗜好性、仕事や生活環境、自店利用におけるプライオリティ、決済手段や領収書の有無など店内で知りうる情報を記憶・記録する。そうした情報を活かして、きめ細かく個々に応じたサービスに反映させ、ゲストの選択肢の中でより「使いやすい店」としてポジショニングすることが覚書の意図だ。


現在、350名ほどの情報が記載されているが、その一つ一つの情報量は少なく、精度も粗い。実践に落とし込めているシーンはわずかだ。12月の繁忙期を通して、ブラッシュアップさせ、今後、活用の幅を広げていきたいと思っている。


覚書については『J×Jの冒険』が『2016年11月』まで進んだ時にまた改めて触れたい(一体いつになるだろうか)。


2015年4月において、僕はこの覚書を一年以内に作り上げたいと思っていた。実際はその半年遅れになったわけだが、上出来だ。勿論、理想には程遠いけれど、自分が思い描く適切な距離を紡ぎ、自分が望んだ関係性をそれなりに構築できたと感じている。


忙しい店ではこの距離の作り方は難しい、と思っている。売上が担保されていて、人員が十分に配置されているのであればやりようはあるかもしれないし、実際にできている店もあるだろう。けれど自店はその条件に該当しないし、自分自身、スピードが要求される肉弾戦の中でゲストの情報を引き出し、適切な距離を探る余裕はない、そして、その能力もない。


昔、何かの本で「100人と浅く繋がるよりも、100人と繋がっている1人と深く繋がるほうがいい」と読んだことがある。これは人脈作りやコネクションの話であり、この手の話の延長線上にあるのは大抵、自己啓発や啓蒙の領域で苦手だけども、通ずるところはあると思っている。自店のような店が近隣住民や会社員に、立ち位置を作っていくためには「数」は重要ではない。何となくの100人ではなく、自店のコンセプトやテーマや強みを理解してくれる、と言うか、楽しんでくれる「1人」と然るべき距離を築くことの方が大切なのだ。そうした「1人」をグリップするためには、情報の送受信が必要で、こちらが提供できるものを示し、相手が何を求めているかを敏感にすくい上げていかなければならない。100人の中ではその情報は埋もれてしまう、でも10人の中であれば見出すことができるはずだ。


いつも290円均一の居酒屋で飲んでいる100人のゲストからすれば、自店が意図していることをちゃんと伝え、ちゃんと表現しないかぎり、ただの「高い店」になってしまう。自店はコンセプトにのっとり、焼酎や日本酒の代わりに海外ビールや珍しい国のワインを用意しているわけだが、焼酎・日本酒派や王道のワイン派の100人からすれば、ただの「品揃えの悪い、飲む酒がない店」になってしまう。

 

何となくの100人では100人分の何となくの反感を買い、100人分の不幸をばらまくだけになる。そして僕らは100人分の徒労を拭えないまま、気だるい明日を迎える。まさに最大多数の最大不幸福だ。そうなるくらいなら不繁盛である方がずっとマシだ。自店のコンセプトやテーマや強みを理解してくれる、と言うか、楽しんでくれる「1人」がお店を信頼して10人を連れてきてれる方がゲストにとっても、お店にとっても「最適な幸福」と言えるだろう。


 

僕自身、商売には向いてないと思っている。計算は苦手だし、営業力もない。けれど、生活はありとあらゆる商売と密接に結びついていて、ありとあらゆる商売の上に成り立っている。否応にも「商売」は目に入ってくるし、成功している商売と失敗している商売を眺めることになる。その中で、こうすると行き詰まるんだろうなあ、という持論を持つようになった(どうすれば商売が上手くいくかはわからない)。

 



僕は商売が行き詰まったり、歪んでくるのは最大化を追うからだと思っている。


 

自店は最大多数の最大不幸を回避し、

 

最大多数の最大幸福には早々に見切りをつけ、

 

最適多数の最適幸福を目指す。






最大化ではく、最適化。




商売不繁盛論は正確に言えば、「商売を最適に繁盛論」となり、不繁盛はそのために生じる現象の一つに過ぎない。

 

 

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*写真は19世紀に「最大多数の最大幸福」を論じた功利主義の創始者ジェレミ・ベンサム