滞在中、それなりに観光もした。バンコクには何度も来てるので、観光意欲は特に湧かないけれど、かと言って、飽きることはないし、アテンドすることを億劫とも感じない。加藤にとっては初めての海外なので、できるだけ堪能していってほしいと思うし、何度も来る中で自然と蓄積されたスポットをまとめてどっさり紹介したいなと思った。
世界中から旅人が集まるカオサンロード。2人ともお店のポロシャツとサロンを持ってきてたので、記念に着替えて撮影。
カオサンから歩いて、王宮方面へ。
ちょうど春節(チャイニーズ・ニュー・イヤー)にあたり、観光地は中国人の団体客でごったかえしていた。あまりにすごすぎて、ワットポー(寝大仏)は断念して、ワットアルン(暁の寺)まで歩いた。
ボートトリップも混んでたけれど、ここは抑えておきたいと思って乗船。船着き場でビールを買って、船に乗りながら飲むのは自分にとっても定番。前に座っていた欧米人の女の子たちに「私たちのはないの?」と聞かれる。「今度は用意しておくよ」と言う。
ボートからは水上生活者の日常を眺めることができる。
水門が開くまで長く待たされることもある。
けっこう長く待たされた。
ボートトリップを終え、ワットアルンを眺めるのに最適な広場に移動。夕暮れ時ののどかな時間が流れている。考えてみれば「ワットアルン」と「夕陽」の組み合わせは初めてだということに気付く。昼間か夜にしか来たことがない。
せっかくだし、このコテコテの組み合わせの写真をコテコテに撮ろうと張り切ることにした。一度、張り切り始めるとけっこう徹底的に凝る。僕が集中している間、加藤は座って遠くを見ていた。
立派なカメラをこさえ、瞬間を待ちわびているカメラマンらしき人たちも何人かいたが、自分のカメラでこのアングルからいい写真を撮るのは難しそうだと判断した。雲の厚さや沈み方からして、ベストタイミングまでおそらく10分くらいある。場所を移すことにした。黄昏る加藤を引っ張り、観光エリアを離れ、現地人の日常の中をそーっと抜け、ポジションを見つける。
「やっぱり」と声に出した。ベストな位置にポジショニングできた時の高揚感、この感覚、旅が懐かしくなる。毎日、こんなふうなことに、こんなふうに夢中になっていたのだ、と思い出した。
ズームを引くと、こうなる。
しかしこのポジション、どうやらタイのヤンキーの方々の溜まり場のようだった。「ヤマモトさん、やばくないっすか?なんかこっちに近づいてきましたよ」と加藤が言う。
「びびるな、加藤」
とは言わず、
一目散に退散。僕はその気になれば信じられないくらいの早歩きができる。ホンジュラスのテグシカルパも、タンザニアのダル・エス・サラームもこの早歩きで乗り切ったのだ。
夜はチャイナタウンへ。
人、人、人、ひたすらに人。唸るチャイナパワーが大地を揺らしていた。人がすごすぎて、何もできないまま練り歩くだけ。一体この人たちは何しに来てるのだろうかと思うほどだった。
僕らが行った日は元旦にあたり、昨日の大晦日はさらにすごかったと聞く。どんだけだ、思うけれど、こういうところにこの国の底知れなさを感じる。
といった具合で、わりとタイトなスケジュールの中にけっこう詰め込んだ。かねてからの懸念は加藤の体力。初めての海外というのは、何もしていなくてもけっこう消耗するもので、ましてや自分のコースについてくるとなると消費カロリーは高い。途中でへばることも視野に入れていたけれど、これが存外、加藤は終始元気いっぱいだった。
このようにして、加藤はバンコクを疾走した。
意外とこのまま何の問題もなくスムーズに終わるかもな、と思った。
そして最後の最後でまるで予定調和のごとく、問題が起きた。
最終日、加藤はバンコクで失踪した。