オープンに向けてやらなければならないことが山積みの中、とりわけ至上命題となるのは「内装工事」だった。言ってしまえば、内装に関しても居抜きである以上、必ずやらなければならないことではない。けれど、全く手つかずでは新しいお店になったという印象をゲストにもたらすことはできないし、自分がお店で表現したいことを伝えるのも難しい。目的は「お店を開く」ことではない。
そうとは言っても時間はない。契約から27日間で大がかりな工事をするのは困難であり、リスキーだった。予算の問題もある。一ヶ月はフリーレントで家賃は発生しないが、それ以降はお店の状況がどうであれ家賃は発生する。27日間でできることの中で、プライオリティをつけて絞り込んで作業を進めていかなければならない。
まだ契約が正式にまとまる前の2月8日。朝まで加藤と飲んで、昼に起き、宮城に戻る彼を東京駅まで彼を送りに行った。そのまま高田馬場に移動し、内装工事をお願いするハヤタツとの初めての打ち合わせに臨んだ。まだ契約は確定ではなかったが、ひっくり返ることはほぼないだろうと判断し、先んじて工事の概要を伝え、スケジューリングの調整をしておこうと判断した。
ハヤタツ、32歳。僕は「ハヤタツ」とは呼んでいないけれど、このブログ内ではそう記すことにする。彼は僕が26歳で会社を辞めて、フリーターの生活を始めたときの職場の年下の先輩。千葉駅近くのエスニック料理とワインを合わせるオシャレなレストランのスタッフだった。このレストランでの勤務はお互いに約一年。僕は僕で新しい職場に移り、彼は彼で新しい仕事にシフトしていった。その新しい仕事というのが内装業。その後も親交は続いたけれど、お互いのハードスケジュールの中で年に1、2回会う程度だった。
それが今、高田馬場のカフェで一枚の設計図を前にお互い、真剣な眼差しを向けている。
「内装業」と言ってもその言葉が指し示す範囲は広い。大工、塗装、クロス張り、電気工事関係、皆言ってしまえば内装業者にあたる。その中でハヤタツはそうした各分野の職人さんを束ねて、ディレクションする立場で仕事をしていたので助かった。知り合いに優秀な大工さんがいたとしても工事全体を見渡せなければ、打ち合わせも作業も効率的には進まない。そうした意味合いにおいて、ハヤタツに内装を一任できたことは非常に大きかった。
当初、工事の依頼内容は実にシンプル。
①通りに向いているカウンターを外し、
②代わりに厨房側にカウンターをつけ、
③トイレの壁紙を剥し、
④本棚をつける
その上で、「現段階で20席程度の席を23~25席に増やす」というものだった。
工事前の写真。
そして、③のトイレの壁紙はこんな感じ。
徹頭徹尾、シンプルに徹していた橘さんが何故、トイレに「ニモ」を採用したのかよくわからない。内装工事の項目を橘さんに伝えると「そっか、残念だな。トイレはウチの売りだったんですけどね」と寂しそうに言った。
限られた予算を考えれば、これだけできれば十分と考えていた。けれど、このあまりにもざっくりとした(と言うか浅はかな)イメージ図がハヤタツによって後に肉付けされ、彩られていく。その過程も一つ一つこのブログの中でトレースしていきたい。
打ち合わせを終えたあと、二人で高田馬場の裏路地にあるミャンマー料理の店に行った。いかにもな店内でチェーオーという温かくさっぱりとした麺をすすり、その美味しさにすっかり幸せな気分になって店を出た。
店のすぐ脇に神田川が流れている。その流れはとてもゆるやかで、おだやかだった。
2月の凍てつく寒さと、その中を静かに流れる神田川は目の前に迫る激流を逆説的に予感させた。
ゆっくり川を眺める余裕なんて、もうしばらくないだろう。
と思ったのは事実。でもその翌週、ちゃっかり温泉に行ってるんだけどね。
いい湯だったな。
<店舗情報>
連絡先 :050-5786-4931
営業時間 :Lunch 月-金 11:45~14:00(ラストオーダー13:30)
Dinner 月-土 18:00~24:00(ラストオーダー23:00)