Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

「ヤマモトさん、あなた、今日死ぬかもしれないの」物語vol1

その夜はとてもいい夜だった。

 

美味しいものを食べたあと、暑くもなく寒くもない夜を散歩し、もうこれ以上にないと思えるほど寸分違わぬ良き心地を乗せた夜風にあたりながら、ビールを飲んだ。散歩を終えると今度はアイリッシュバーに入り、やはりビールを飲む。オリーブのあとに、アイリッシュソーセージ&チップスが運ばれ、これがまた劇的に絶妙で、終電まであとわずかということも知りながらも、何らの罪悪感も良心の呵責もなく、それどころか勢いというのも特に持ち合わせぬまま、慣性に寄り添うかのようにただただ静かにこれを乗り過ごした。

 

そして、そのまま朝を迎えた。その朝もまたとてもいい朝だった。

 

この時はまだ、4日後の朝に死を通告されるとは思わなかった。

 

朝まで遊んでいたと言ってもそんなに飲んでもいないし、前日にたっぷり寝たことからそれほど疲れてもいなかった。早朝、家に戻り2時間眠ると自分でもびっくりするぐらいスッキリしていた。お店に出勤し、ランチ営業をこなし、ディナーまでの間はまた眠り、夜の営業が始まる。予約も入ってなかったので落ち着いた夜で、ある程度仕込みが進んだところで引き継ぎ、夜20時からの採用面接に臨んだ。面接と言っても内定の旨は通知していて、残すは細かい確認と擦り合わせ、それも早く切り上げ、あとは雑談。


「学生の頃、新聞配達をしてまして。夜の2時半に起きて5時から7時まで配達、そのあと学校に行って、学校から戻って夕刊をまた配達します。それを2年」

 

「マジで?すごくない?そんなのできたらあとはなんだってできるじゃん」

みたいな話をしている最中に、自分の身体に異変を感じた。あれ、ちょっと熱っぽいな。

面接を終え、本店の営業も終わり、まかないを食べる際に僕は強いお酒をぐいっと飲んであとはゆっくり寝ようと思って、焼酎を注いだが、どうにも進まない。やばい、これ、多分もっと悪くなるやつだと思って、まかないの途中に先に帰ることにした。4年半営業しているがまかないの途中で帰るというのはこれが初めてのことだった。

 

家に帰ると案の定、激しい悪寒が全身を駆け巡り、全身がガタガタと震えだし、布団から出られなくなった。体調を崩した時特有のちょっとした悪夢みたいなものにうなされて、寝れてるのか寝れてないのかよくわからない曖昧な時間を過ごした。3時をまわったところでこのままじゃダメだ、何か手を打とうと震い立ち、部屋の暖房を30℃に設定し、ギリギリのラインの熱湯をシャワーで浴び、風呂上がりに「蒙古タンメンの北極」のカップラーメンを食べた。するとさっきまであれだけ寒かったのに全身から汗が噴き出した。オーケー、これでいい、正しいのかどうか定かではないが、今はとにかく全身から汗を絞りだそう。

この甲斐あってか少しスッキリした。そして、そのまままた曖昧な眠りについた。


翌朝起きると熱は引いていたが、今度は空前絶後の倦怠感とだるさを身に纏っていた。人生史に刻まれるほどのだるさで、何とか出勤はしたが、ランチのスタンバイにあくせく動くスタッフを横目に「ごめん、10分だけ横になっていいかな」と言って横にならせてもらった。これもまた初めてのことだ。どれだけヘビー級の2日酔いになったとしてもこれはない。けれど座ってることもままならないほどのだるさだったのだ。

 

その日を何とか乗り切ると気だるさは多少和らいだものの、今度は喉の痛みが台頭し始めた。やれやれ、だった。症状が刻々と一日単位で変わっていく。火曜の夜に感じた異変(微熱)は木曜日には喉の激痛へと変貌していた。そうとは言っても喉が痛いだけなので名刀「のどぬーるスプレー」(小林製薬)で対処していた。僕はこの名刀に絶大な信頼を寄せているのだが、いつもと違ってどうも効き目が弱い。というよりも、吹きかけた時の痛みが尋常じゃなく、呼吸を見失うほど。もはや自ら患部に毒を吹きかけているようにしか思えなかった。

そう疑心を持ち始めた時、今度は奥底からヤツが蠢動をはじめた。これはまさか世に言う扁桃腺か…。扁桃腺が異常に膨れ上がってるのに気づき、今度は対扁桃腺用に組織された特殊部隊「ハレナース」(小林製薬)を投入。これで引導を渡せると思った。

 

金曜の営業を終え、いったん安堵した。症状がよくならなかったとしても明日はゆっくり眠れるし、病院にも行ける、と。ハレナースの効力あってか、痛みも幾分引いていたし、多少気を緩めていた。が、いざ寝てみるとどうにもこうにも痛い。どうにかこうにか寝ようと試みるが、どうにもこうにも扁桃腺が膨張している。爆発寸前のセルみたいだ。

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どうにも寝付けないので、気を紛らわせるために借りていた『アベンジャーズ-エイジ・オブ・ウルトロン-』を観る。クライマックスのシーンでヒーローのキャプテン・アメリカが味方を鼓舞するために「倒れるまで戦おう、そして、死んだら立ち上がれ」というパワーハラスメントの極致のようなことをとても堂々と、とても勇ましく、声高に叫んでいる。

 

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朦朧とした意識の中で「死んだら立ち上がれ」という言葉が繰り返される。

 

…。

 

 

…。

 

 

結局、そのまま眠ることなく、病院に向かった。

 

医者が僕に言ったのは「ヤマモトさん、あなた、今日死ぬかもしれないの」ということだった。

 

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死んだら立ち上がれ