結局、スムーズに明け渡しとはいかず、その後も細かい修正や追加工事の対応に追われた。このあたりも内装業ではよくあることだ。けれど、多少工期が伸びたにせよ、最終局面でクライアントと元請け/下請けが話をこじらすことなく、うまくまとまったことに多いに安堵した。ここで揉めると全てが台無しになる。
ハヤカワは四六時中現場にいた。孫請けとして入り、①解体〜⑬家具搬入まで基本的に全ての工程に立ち会っている。そこにオーナーさん(クライアント)も来る。当然、ここをこうしてほしい、ああしてほしいというリクエストは直接ハヤカワに伝えられるのだけど、僕らが勝手に工事内容をいじることはできない。あくまで僕らは元請け、下請けからの指示に遂行する孫請けなのだ。もしオーナーさんが何かを求めるのであれば、元請けに伝えなければならない(一番現場をよく知るハヤカワにお願いしたいのがオーナーさんとしての自然な心情だろう)。が、元請け、下請けは基本、現場にいない。ここに難しさがある、そしてこれもまたよくあることだ。
反対に一番の成果としては、とにもかくにもゼロからやりきったという部分にある。チームをまとめる側もそうだけども、チームに参加する側も最初は構える。けれど一度仕事を通してしまえばお互いになんとなくつかめるものだ。今回のこの銀座を通して培われたネットワークは当然、今後に活きてくるし、いざ新しいプロジェクトに取り組むとき下地ができた状態でスタートを切ることができる。
「自分的に一番、達成感がある部分はどこなの?」とハヤカワに聞いてみた。
「トイレですね」と即答が返ってきた。
「今回、一番厄介だったのがトイレなんです。壊してみたら色々問題が出てきてトイレの場所を変えざるをえない状況になってしまって…。で、新しい設置場所は勾配がとれなかったんです。そうなると床をあげるしかないんですけど、そうすると天井が低くなって圧迫感が出る。でも甘い傾斜だと下水が逆流してくる。これをどうにかできないか水道屋さんと知恵を絞って取り組めたのが一番エキサイティングでしたし、やってやった感ありますね。どうしてもパッと目につきやすい造作や塗装やクロスに目が行きがちなんですけど、こういう誰も気にしない部分、誰もが当たり前だと思っている部分に職人さん(水道屋さん)の匠が光るんですよね」
今回の件である程度お店作りの流れは理解できたつもりだし、多いに勉強になった。けれど内装そのもののことをあれこれ語ることはできない(今回のこの一連の記事はただの事実をただ並べているだけだ)。が、その話を聞いて、内装も面白いなあとしみじみと思った。
そして、トイレを眺めるハヤカワはとてもいい顔をしていた。
置きっぱなしにされたインパクトとボールペンが少し胸を打つ。