Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの石の上の4年目への冒険

「3周年の時は感慨深かったな」

と、三か月前くらいに知り合いの飲食店経営者が言っていたのを思い出した。その方は先日5周年を迎えたところで、僕にとっては遥か先を走る先輩にあたる。

 

「やっぱり3年ってひとつ節目だと思うんだよね」と彼は続けた。

 

J×Jも無事、4年目を迎えることができた。皆様の日頃のご愛顧に厚く御礼申し上げます。けれど、先輩が言った「感慨深さ」があるかと言うと、実際そうでもなかったりする。日々をこなすのにわりと精一杯で、予期せぬ事態が次から次へと持ち上がる。どれだけ遠くまで見通したとしても、どれだけ細部まで目をすぼめたとしても、不測や想定外は鮮やかに、そして劇的に、神出鬼没を繰り返す。

 

石の上にも3年、という諺がある。先輩や上司が若手によく言うフレーズだが、誤用とまでは言わないものの、この用い方にはいささかの強引さがある。「3年」というのはあくまで「ある一定期間」を喩えた表現であり、具体的な年数として「3年」を示したものではない。「石の上に座ると最初は冷たいけれど、ずっと座り続けているとそのうち自分の体温であたたまり、そのうち石そのものがあたたく感じるようになる」というのがこの諺が意味するところだ。

 

3年前、知人や身内、友人から多大なる応援やお祝いをいただいてオープンすることができたJ×Jであったが、それは物事の一側面であり、そうした一側面だけで立体性は保てない。お店は継続できない。他方から見ればJ×Jが腰を下ろしたその石は、多くの石がそうであるように、とても冷ややかなものであった。ゼロから物事を始める時に伴うその冷たさに動ずることなく、平常心を以って居座るのにはそれ相応の覚悟と根気がいる。辛抱強く我慢すればやがて物事は好転する、とそんな甘いことは思わない、けれど、「耐えないかぎり、石は温まらない」、これも事実であるように思う。げんなりすることも、がっかりすることもあるけれど、投げ出したり、腐ったりさえしなければゼロにはならない。100になることはないかもしれないけれど、ゼロになることもない。

 

1年目の夏に男女6人でご来店いただいたゲストの中で、急に体調を崩し、途中で帰られた女性がいた。全員近くに勤める会社員の方々で、それから半年ぐらいして今度はその6人を含めて大人数の貸切でご利用いただいた。

 

「実は半年ぐらい前にこのお店で飲んでたんですけど、その時、〇〇さんが急に体調崩しちゃって…。あれから半年、今日は〇〇さんがめでたく産休に入られるということで、お店はやっぱりここだろうと思ったわけです」

 

と、幹事の方が挨拶でそう言った。

 

「ここに来るとあの時のつらさを思い出すんですけど…」と苦笑いしながら、「元気なコを生みます」と妊婦さんは照れ笑いしていた。

 

それからさらに2年経って、この時の幹事の方がつい先日、再び送別会で自店を使ってくれた。ご挨拶がてらに、少ししゃべっているとあの時の女性の話になった。僕としてはその後どうなったのか少し気になっていたので、ちょうどいい機会だった。

 

「今、二人目を妊娠してるよ」と幹事さんに言われ、ちょっとびっくりした。

 

けれど、3年とは実にそういう歳月だ。

 

当時、着たくもないスーツを嫌々纏っていた新入社員の方々が今ではお洒落なスーツを見事に着こなしながら、飲み会の勝手がわからない後輩をフォローしたり、世話をしてたりする。飲みすぎて、とろけるようにとけて、内に秘めた小悪魔を全開に解き放っていた女の子が入籍を報告していたりする。自店で転職の誘いを受けていた方が実際に転職していたり、海外赴任が決まって外国に行っていた方が日本に戻ってきたり、かと思えば、「秋葉原は今日が最後になるんで、お昼食べにきました」と言ってくれる方がいたりする。そうした交差が身内や友人ではなく、お互いに名前も知らない間柄の中で、唯一の共通項である店を通して行われる。僕は彼らの人生がいかようなものか、まったく知りえないのだけど、一方で彼らの人生の一部に確かに立ち会っている。そして、3年という時間を経て、その一部と一部はストーリーとして連続性を帯び始めている。

 

3年とは実にそういう歳月だ。こうして夜遅くにお店で独り、ブログを書いていると、その歳月の重みに改めて驚かされる。

 

この3年の間に自分自身がどうなったかについてはわからない。それを測れる尺度はない(残念ながら、お金は全然貯まっていない)。


一周年の時に書いたブログはこれで、

www.journeyjourney-blog.com

 

2周年の時に書いたのはこれ。

www.journeyjourney-blog.com

 

自分自身はこの3年でどのようになっただろうか。自分ではよくわからないけれど、ただ、仲間は増えた。

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自分がこの3年でどう成長したか、それを測れるのは、それを示せるのは、僕がこれから、この仲間たちと一緒に何をするのか、何ができるかに由るのだと思う。それが本当に楽しみだ。

 

どれだけ遠くまで見通したとしても、どれだけ細部まで目をすぼめたとしても、不測や想定外は鮮やかに劇的に神出鬼没を繰り返す。それはきっとこれから先も続いていくのだろう。だけども、やっぱり楽しみで、楽しい。仕事をするのが何よりも楽しい。

 

3年前の自分はともかく、15年前の自分とは変わったなと思う。社会に出るのも、就職活動するのも嫌で嫌で仕方なく、ずっと放浪して生きていたいと思ってた自分に「働くってけっこう面白いぞ」と偉そうに言いたい。「石の上にも三年だ」と先輩風吹かせたい。

 

“石の上に座ると最初は冷たいけれど、ずっと座り続けているとそのうち自分の体温であたたまり、そのうち石そのものがあたたく感じるようになる” 

 

 

3年経ち、自分自身のことはさておき、石そのものは今、あたたかい。

 

 

 そのあたたかな石の上の4年目を冒険させてくれるスタッフと、取引先と、ゲストの皆様に心より感謝。