Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

2017年4月1日、3年目の「そもそも論」。

2017年4月1日。今日からJourney×Journeyは3年目。まずは無事に3年目を迎えることができたことに感謝。日頃ご愛顧の皆様に心より御礼申し上げます。と、よく言うけれど、誠にそう思います。J×Jのドアを開いてくれる人がいる、J×Jの椅子に座ってくれる人がいる、そもそもJ×Jを選んでくれてる人がいる、そういう「そもそも」に、そもそも感謝したい。

同様に、スタッフにも改めて感謝したい。無数にある選択肢の中で、J×Jで働いてくれている。そもそも、J×Jで働いてくれている。もぞもぞと、ありがとう。

たまに頭の中がやけに静かになることがある。そういう時は決まって、お店が混んでる時だ。本当であれば、できるだけ速く正確に、頼まれているものを出さないといけないし、全神経がそれに向かって集中している。当たり前の話、僕も茜も真剣だ。けれど、そういう時にたまに、ふと我に返る。熱せられた神経が水風呂に沈んでいくかのように静まり、僕は目の前の調理から目を離し、客席をちらっと眺める。時間にすればおそらく1秒か、2秒だ。客席ではお客さんが食べたり、飲んだり、しゃべったり、待ってたりしている。

そして、そういう時に改めて思う。「ありがたいなあ」と。今、ここにいる人たちのほとんどは見ず知らずの名前もわからない方々だ。勿論、店を通して仲良くなったり、親しくさせていただいてる方も一部いる。けれども、大多数は友達でも何でもなく、言うなれば「他人」であり、言うまでもなく「お客さん」だ。J×Jはそうした方々の中で選択肢の一つになっている。僕の知らないところで「今日、昼飯、J×Jにしようか」、「今度の送別会の場所、あそこにしといてくれ」みたいな思惑が働いて、そういうわけで今、ここにいる。そういうわけで今、客席で食べたり、飲んだり、しゃべったり、待ってたり、してくれている。店はそうした日常が日常的に積み上げられてこそ成立するのであって、ある意味では当たり前のことなのだけど、その「当たり前」がふと、ぐっと尊い

決まって忙しい時に起こる、その立ち止まる一瞬をこれからも大切にしていきたい。早く料理作れよ、という話なのだけど、多分それは必要な静寂で、多分それは在るべき1秒なのだと思う、僕にとって。

 

世の中には本当に多くの仕事があって、そのどれもが誰かに求められているから存在していて、どんな仕事にも敬意は払われるのだけど、その中でも大仕事と言えるのは「それまでになかった文化を作る」ことだと思う。新しい文化が新しい行動を生み、新しい習慣が形成される。新しい習慣に合わせた新しいサービスが生まれ、新しい雇用が生まれる。ダイナミックに歴史的に見れば、鎌倉幕府大政奉還及び明治維新、一昔前の日本の企業で言えば、ソニーセブンイレブンetc、昨今の世界的企業で言えば、グーグル、アップル、フェイスブックetc。飲食に関することで言えば、例えば回転寿司の登場は革命的で、ハウス食品がミネラルウォーターを売り出したのは当時センセーショナルで、伊藤園によるお茶のペットボトル販売も然り、直近かつ身近なところで言えばラーメン(「つけ麺」とか「二郎」とか)や「立ち食い」の業態(「俺の~」、「いきなりステーキ」、バル)だとか。

などなど、

規模感や影響力はてんでバラバラだけども、「それまでになかった文化を作る」という観点で言えば、どれも当てはまる。


2年前のオープン当初、J×Jに入るおじさんはほとんどいなかった。ランチは女性がほとんどで、たまに女性に連れてこられるおじさんは肩身が狭そうだった。メニューにしても、内装にしても、馴染みのないものには反射的に警戒心を抱く。僕も同じ立場で、この裏路地を道行くサラリーマンだったとしたら、多分、何となく斜に構えて、何となく素通りしてたのではないかと思う。


でも2年経って、その色合いは変わってきた。当初、1:9だった男女比は去年、4:6になり、今年に入って6:4で推移している。女性が減ったわけではなく、絶対数の多い男性の利用が増えてきたことを示している。最近では年配の男性が部下や同僚の若い女性を連れてきて「おススメはガパオだよ」、「この店には生のシードルがあってね」などと紹介してくれている。


エスニック料理や各国料理への敷居が下がってきた世相的な傾向も勿論ある。そうした背景はあるにせよ、今までおじさんたちのパターンになかった「多国籍料理」というのが新しい選択肢の一つとなり、「フォーマルな会はJ×Jで」という新しい習慣を組み込んでいただけてることに感謝とともに、率直に興奮する。ごく限られた範囲の話だけれど、まだまだこれからだけど、「それまでになかった文化」をほんの少しは作れたのではないかという手応えと感触、そしてちょっとだけの自負がある。


気心の知れた仲とわいわいするのは楽しい。「間違いなく確かなこと」だ。けれど、その既成を大切にしながらも、「おぼろげで不確かなこと」に挑んでこそ冒険だと思っている。3年目も引き続き、何となく斜に構えて、何となく素通りしている方々のドアを何となくノックして、彼らにとっての「新しい文化」になれるよう、ハングリーに挑戦してきたい。

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そして、たまにふと顔を上げて、1秒ないし2秒、客席を眺めて、相変わらずの「そもそも」に相変わらず、そもそも感謝したい。


*写真はニッポンを支えるニッポンのサラリーマン、そしてニッポンのサラリーマンに支えられるJourney×Journeyと仕事上がりのスタッフあかね(勤務外であれば風営法に抵触しないはず)