Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

加藤の冒険.vol1-山本の視点-

時を遡ること、2014年8月。通勤途中に自動車と接触して小指を骨折していた僕は勤めていた職場の戦線から一時離脱、長期療養に入っていた。療養と言っても小指を骨折しただけなので五体は満足。この時間を利用して、お店についての構想を具体的に膨らませていた。その構想において、最も重要な肝となるのは物件であり、そして「人」であった。「どこで」、「誰と」、やるか。ここが決まらないかぎり、話は前に進まない。

 

 

この時点で物件については全くの白紙であったが、「誰とやるか」については目星をつけていた。盆が明けて、夏が静まりはじめた8月の後半、その彼に出会うために東京から鈍行を乗り継ぎ、仙台に向かった。

 

 

5年ぶりくらいに出会った彼は髪を伸ばしていた。僕は身なりが厳しい会社に勤めていた頃の彼しか知らなかったので、その長髪に違和感を感じたが、まあこっちのほうが本来の彼なのだろう。

 

 

加藤龍樹、当時26歳(現在27歳)。僕が新卒で入った会社、セブンイレブン-ジャパンの後輩。後輩とは言え、ちょうど僕が退職する直前に入社した新入社員で、一緒に働いた期間は実質3ヶ月程度。一緒に大きなプロジェクトに取り組んだ経験もないし、指導や教育に精を出したわけでもない。僕は僕で退職前の最後の大仕事の仕上げにかかっていたし、彼は彼で右も左もわからないままレジを打ち続けていた。今こうして思い返してみるにあたり、はっきり言って、当時の彼との記憶は皆無に近い。退職後は一年に一回電話で近況を話す程度だったし、加藤も5年ほど勤めたあとセブンを退職し、宮城の実家に戻って他の仕事をしていた。

 

 

ただ今でも記憶しているのは退職間際の夜。川崎駅前の居酒屋で「俺は辞めるけど、まあお前は頑張れ」みたいなありがちな酒を飲んだあと、帰り道に加藤が「ヤマモトさん、トイレ掃除でもいいんで雇ってください」と言った。この時すでにいつかお店を持ちたいという想いはあったし、セブンイレブンでの勤務もまたそのための布石だった。けれどそれを加藤に吐露したことはないし、また匂わせたこともない。「トイレ掃除だけっていうのは難しいな、人件費的に」と言って、そのまま別れた。その一幕については今でもよく覚えている。

 

 

 

この仙台での夜においては特に踏み込んだ話はしていない。「おそらく来年、お店を開くことになると思う。それを今のうちに共有だけしておきたい」とだけ伝えた。「そして、然るべき時が来たら、ちゃんとノックをするから」、と。

 

 

10月以降、物件の話が出始めてからの経緯は今まで綴ってきたとおりだ。そして、それに並行させて加藤とのコミュニケーションもより密に進めてきた。丁寧に、丹念に、強引に誘うことなく、あくまで任意であり、自分次第であるという体裁をとりながら、じわじわと退路を封じていった(この頃には加藤以外の選択肢は考えていなかった)。

 

 

何故、加藤か。

 

 

色々あるけれど、一言で言えば彼が「自分に持っていないもの、持てないものを持ってるから」に尽きる。それに付随して、「自分とはまるで違う人間だから」というのもその理由に挙げられる。自分と似た人間にジョインしてもらってもさほどの展開は望めないし、何より面白味がない。そして、もう一つ。それは彼が「信頼できるタフ」であること。信頼できる人間は大勢いるし、タフな人間もたくさんいる。けれど「信頼できるタフ」な人間というのは意外といないもので、彼はこの稀有な存在に該当する。

 

 

(と、思っていたが、2015年9月現在の時点で、意外とそうでもないことがわかった。少なくとも、思ったより「タフ」ではない、笑。けれど、成長痛のようなものだと解釈している。潜在的には俺なんかよりもずっとタフで、俺なんかよりもずっと跳躍力のある人間だと思っている)

 

 

(と、書かないと事実を偽ることになるし、同時に、これを読んでいるであろう加藤をフォロー)

 

 

 

そして、物件をめぐる契約交渉も山場を迎えていた2月8日、物件を見るために加藤が一泊二日で東京にきた。上野で彼を迎えたあと、もはや異国感すら漂うアメ横の雑踏を抜け、スタイリッシュな2k540を抜け、台東区台東1丁目へ。この時はまだ橘さんの所有だったため、外から簡単に確認したのち、自宅のある駅まで移動し、バーミヤンに入った。

 

 

 

 

 

パソコンとiPadを開きながら、構想とビジョンについてを共有し、諸々の連絡事項を伝えた。そして、一応口説き文句も必要だろうと思ったので、添えた。

 

 

 

「おそらくこの先1年は自分の人生における最もエキサイティングな青春になると思う。その青春を誰と過ごしたいか、俺は加藤以外を考えてない。俺はともかく、俺のまわりはみんな素敵な人たちばかりだから、加藤にとってもエキサイティングな青春になることは保証する」

 

 

 

 

この1分後に乾杯したビールは長い人生の中でもそうは飲めない極上の一杯だった。

 

 

 

そして、一か月後、

 

 

 

 

 

 

 

 

加藤、27歳。

 

 

「人は製氷機を枕に寝ることができる」ということを僕に教えてくれたりしながら、冒険中。