Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

ブログ

『J×Jの冒険』への冒険vol26.【商圏マーケティング-立地編-】

内装工事が始まる前に取り組みたかった一つに商圏のマーケティングが挙げられる。「マーケティング」と言ってもそんな仰々しいものではなく、単純にお店のまわりに大体どれくらいの人が住んでいて、どれくらいの人が働いているのか、をざっくり把握しておき…

【外伝】加藤の冒険-誕生日おめでとう編-

こうして、加藤はシャバに出た。 しかし、勿論、無罪放免というわけにはいかない。自らの私的事由によって、無断欠勤したのは事実であり、少なからず他方にわたり迷惑をかけ、さらに嘘に嘘を重ねた。然るべき責は負うべきであり、保護観察処分のもと、相応の…

【外伝】加藤の冒険-無断欠勤編④-

国民年金? 「起承転結」の「起」からしてこの摩訶不思議。僕は長い夜になることを覚悟した。このあと加藤の口から語られる一大叙事詩がどのような「結」を迎えるのか、全く予想だにできなかった。「国民年金未納」に始まり、4日間の無断欠勤に至るまで、一…

【外伝】加藤の冒険-無断欠勤編③-

「作戦」の目的は2つ。 1つめは「どこにいるかもわからない加藤を戦場に引きずりだすこと」。 2つめは「その時、彼に嘘をつかせないこと」。 1つめは比較的容易だけど、問題は2つめだった。要は彼が嘘に嘘を重ねるのを防ぐための包囲網を敷けるかどうか…

【外伝】加藤の冒険-無断欠勤編②-

「よくわからないな。何の症状で病院に行って、どれくらい遅れそうかを聞いたんだけど。それを報告してもらえないと対処のしようがないからさ」 こんなレスをしたところでまあ意味ないだろうと思いながら、とりあえず返信する。案の定、既読にはならない。出…

【外伝】加藤の冒険-無断欠勤編①-

新年明けましておめでとうございます。旧年中はひとかたならぬご厚情を賜り、誠にありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 本来であれば新春とともに抱負などを掲げて、心新たに今年一年に臨むところなのだけど、これから記す物語…

『J×Jの冒険』への冒険vol25.【ダンス・ダンス・ダンス編】

2015年12月31日。無事に大晦日を迎えることができて、とりあえず安心している。 4月のオープンに合わせてブログを書きはじめ、途中何度かリアルタイムの投稿を織り交ぜながら、基本的にはオープンに至るまでの過程を記し続けてきた。2014年10月まで遡り、24…

『J×Jの冒険』への冒険vol24.【東京ミュージックと東京ノスタルジー】編

僕は普段の日常生活で音楽を聴くことはあまりない。静かな方がいい、というわけでもないし、むしろ音楽を聴くことは好きなのだけど、特に理由もなくあまり聴かない。本を読むのが嫌いなわけではないし、読みたいと思ってるんだけど、何となく手がのびない、…

『J×Jの冒険』への冒険vol23.【A子とJ子】後編

2015年12月現在、ランチメニューは2種類提供している。一つは「カオマンガイ」。タイの代表的な屋台料理で鶏から出たダシで炊きあげたご飯の上に鶏肉を乗せたシンプルな料理で、地域によっては「シンガポールチキンライス」、「海南鶏飯」と呼ばれたりする…

マジカルリターンに関して

今回のブログは明日、12月1日からお店で始めるキャンペーン「マジカルリターン」に関するお知らせです。 マジカルリターンとは「割引券」のことです。2015年12月にご来店いただいたお客様に1組につき1枚ずつ配布していきます。1名様のご来店でも、20名様の…

『J×Jの冒険』への冒険vol22.【A子とJ子】前編

「最初からランチ営業をするかどうか」というのはオープンまでの準備期間中における一つの検討項目だった。「はじめはどっちか片方から始めて、慣れてきてから両方やるといいよ」と諸先輩方のアドバイスもあり、この如何についてしばし逡巡していた。 想定さ…

加藤の冒険②-初日編-

契約から約一週間後の3月9日は加藤が上京する日となっていた。彼の上京にあたり、まず問題となるのは彼の住まいをどうするか、ということだった。加藤がどこに住もうが、それは彼の自由であって僕がとやかく言うことではない。けれど、彼は東京にまったく土…

やっぴーとカオマンガイの冒険

2008年から2010年までの間、千葉の実家で独り暮らしをしていた。チェーン店の飲食店とレストランでのバイトを掛け持ちしながら、世界一周のための資金を貯めていた頃で、料理をやり始めた時期に重なる(それまではカレーライスすらまともに作れなかった)。夕…

貝の冒険

久しぶりのブログの更新は番外編。 お店をやっていれば新しい出会いが尽きることはそうはない。その分、きっちり別れもあって、「いつかまた」と締めくくれるものもあれば、その隙間さえないものもある。いずれにせよ、出会いと別れの一体性はわりとソリッド…

『J×Jの冒険』への冒険vol21.【内装工事】編②

前回の記事にも書いたように、内装工事を一任するハヤタツとの工事内容についての打ち合わせは契約が始まる前、2月の段階であらかた済ませていた。工事に取り掛かるのは3月の第三週目に約5日間にわたって行う、というスケジュールも事前に調整済み。工事が終…

『J×Jの冒険』への冒険vol20.【内装工事】編①

オープンに向けてやらなければならないことが山積みの中、とりわけ至上命題となるのは「内装工事」だった。言ってしまえば、内装に関しても居抜きである以上、必ずやらなければならないことではない。けれど、全く手つかずでは新しいお店になったという印象…

『J×Jの冒険』への冒険vol19.【契約初日】編

2015年3月1日、日曜日、契約初日の日。 池尻さんの立ち会いのもと、橘さんから鍵を渡された。軽く歓談したのち、二人は店を出た。店内には僕一人。店に一人でいるというのは当然、これが初めてとなる。いつもは友達とグループで行動していたのに、ふと気づい…

加藤の冒険.vol1-加藤の視点-

「カトーは30歳の時にどうで在りたいか、とかそういうイメージある?」 2014年8月30日、仙台、国分町。 久しぶりのサシ呑みで、お互いの近況報告が終わり、早々にけっこう重ための質問をされかなり動揺した。 その頃の僕は、それなりに仕事をして、それなり…

加藤の冒険.vol1-山本の視点-

時を遡ること、2014年8月。通勤途中に自動車と接触して小指を骨折していた僕は勤めていた職場の戦線から一時離脱、長期療養に入っていた。療養と言っても小指を骨折しただけなので五体は満足。この時間を利用して、お店についての構想を具体的に膨らませてい…

『J×Jの冒険』への冒険vol18.【橘さんの冒険】編

2015年2月26日木曜日、夜22時。冷たい雨がしとしとと降る中、僕はファミリーマートの前で缶ビールを飲み、そしてファミチキを食べていた。 経験上、おそらく橘さんはビールではなく、いきなり強い酒からはじめる。肴を用意したりもしない。淡々と、ひたすら…

『J×Jの冒険』への冒険vol 17.【大義のないソロバンははじくまい】編

「山本さんからの最初の提示金額が○○万円だったりしたら、どうしようかと思ってました。この話、白紙に戻すことだって考えてましたから」 橘さんは笑いながらそう言っていたが、僕は身のすくむ想いだった。危ない、非常に危なかった。 橘さんとの造作譲渡を…

『J×Jの冒険』への冒険vol16.【妄想デッドヒートと池尻さんとの冒険】後編

賃室申込書に僕が設定した家賃を記入し終えると、池尻さんは神妙な面持ちで「本当にその金額でいいんですか?」と僕に尋ねた。 その質問の意味が僕にはよくわからなかった。他に応募者がいないのであれば、オークションのように設定する家賃について駆け引き…

『J×Jの冒険』への冒険vol15.【妄想デッドヒートと池尻さんとの冒険】前編

2015年2月13日の金曜日の時点において、僕は自分の他に当物件にどれほどの応募があるのか、そして、どんな応募があるのか、全く知らされていなかった。不動産会社にとって“誰と契約するか”の判断材料は「資金力」と「与信」の他になく、僕にはそのどちらもな…

『J×Jの冒険』への冒険vol14.【ハッピーorアンハッピーバースデイ編】

橘さんが2月いっぱいでお店を閉めることを決断したのが1月上旬。契約解除の申し出は管理会社に速やかに受理され、この物件の担当である池尻さんは早速、各媒体に物件情報を公開した。その募集に対して手を挙げた人間が管理会社と面接する。まずはそこでふる…

『J×Jの冒険』への冒険vol13.【橘さん、決断編】

「席数は19です。ランチの客数は大体20人ちょいってところですかね」 年が明けてすぐ橘さんから連絡が来た。「お店に来てほしい」と。 「席数が19でも、ぴったり19席埋まることってなかなかないじゃないですか。4人席に3人座ることもあるし、1人で来るお客さ…

『J×Jの冒険』への冒険vol12【クリスマスに自分の人生を打ち合わせる編】②

池尻さんとの約束のクリスマスまで一週間。 12月の忙しさも佳境を迎え、押し寄せる疲労感もピークに達していた。こんな状況で池尻さんとの第1ラウンドまでに必要なものを準備できるだろうかと不安だった。 と言うか、そもそも何を準備すればいいのだろうか…

『J×Jの冒険』への冒険vol11【クリスマスに自分の人生を打ち合わせる編】①

2014年12月、オーナーの橘さんから連絡が来た。 「山本さん、不動産会社を紹介します」 12月の凍えるような寒さの中、体温が高まっていくのを強く感じた。 「担当者の名前は池尻(仮名)さんです。山本さんの方から池尻さんに電話するということを伝えてありま…

『J×Jの冒険』への冒険vol10.【ほぼ『ねじまき鳥クロニクル』引用編②】

村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』、引用、続く。 _______________ 「うまくやるためのコツみたいなものはちゃんとあるんだ。そのコツを知らないから、世の中の大抵の人間は間違った決断をすることになる。そして失敗したあとであれこれ愚…

『Journey×Journeyの冒険』への冒険vol9【ほぼ『ねじまき鳥クロニクル』引用編①】

話は変わり、橘さんが5年前にこのお店をオープンした頃の話になった。 「浅草や秋葉原で物件探してたんですけどね、なかなかピンと来るのがなくて。困っていたところに不動産屋さんが紹介してくれたのがこの物件です。当時は喫茶店でした。20年くらい続いた…

『Journey×Journeyの冒険』への冒険vol8.【神は死んだ編③】

「な、なるほどですね…」と僕は言う。 哲学書か。 哲学書か…。 本の話題を足掛かりに会話を通常の軌道に戻そうと試みたが、結局、この面舵いっぱいも、より困難な航路へと自分を追い込む形になった。早々に切り上げようとしながらも、とりあえず自分の知って…