Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

「ヤマモトさん、あなた、今日死ぬかもしれないの」物語vol1

その夜はとてもいい夜だった。

 

美味しいものを食べたあと、暑くもなく寒くもない夜を散歩し、もうこれ以上にないと思えるほど寸分違わぬ良き心地を乗せた夜風にあたりながら、ビールを飲んだ。散歩を終えると今度はアイリッシュバーに入り、やはりビールを飲む。オリーブのあとに、アイリッシュソーセージ&チップスが運ばれ、これがまた劇的に絶妙で、終電まであとわずかということも知りながらも、何らの罪悪感も良心の呵責もなく、それどころか勢いというのも特に持ち合わせぬまま、慣性に寄り添うかのようにただただ静かにこれを乗り過ごした。

 

そして、そのまま朝を迎えた。その朝もまたとてもいい朝だった。

 

この時はまだ、4日後の朝に死を通告されるとは思わなかった。

 

朝まで遊んでいたと言ってもそんなに飲んでもいないし、前日にたっぷり寝たことからそれほど疲れてもいなかった。早朝、家に戻り2時間眠ると自分でもびっくりするぐらいスッキリしていた。お店に出勤し、ランチ営業をこなし、ディナーまでの間はまた眠り、夜の営業が始まる。予約も入ってなかったので落ち着いた夜で、ある程度仕込みが進んだところで引き継ぎ、夜20時からの採用面接に臨んだ。面接と言っても内定の旨は通知していて、残すは細かい確認と擦り合わせ、それも早く切り上げ、あとは雑談。


「学生の頃、新聞配達をしてまして。夜の2時半に起きて5時から7時まで配達、そのあと学校に行って、学校から戻って夕刊をまた配達します。それを2年」

 

「マジで?すごくない?そんなのできたらあとはなんだってできるじゃん」

みたいな話をしている最中に、自分の身体に異変を感じた。あれ、ちょっと熱っぽいな。

面接を終え、本店の営業も終わり、まかないを食べる際に僕は強いお酒をぐいっと飲んであとはゆっくり寝ようと思って、焼酎を注いだが、どうにも進まない。やばい、これ、多分もっと悪くなるやつだと思って、まかないの途中に先に帰ることにした。4年半営業しているがまかないの途中で帰るというのはこれが初めてのことだった。

 

家に帰ると案の定、激しい悪寒が全身を駆け巡り、全身がガタガタと震えだし、布団から出られなくなった。体調を崩した時特有のちょっとした悪夢みたいなものにうなされて、寝れてるのか寝れてないのかよくわからない曖昧な時間を過ごした。3時をまわったところでこのままじゃダメだ、何か手を打とうと震い立ち、部屋の暖房を30℃に設定し、ギリギリのラインの熱湯をシャワーで浴び、風呂上がりに「蒙古タンメンの北極」のカップラーメンを食べた。するとさっきまであれだけ寒かったのに全身から汗が噴き出した。オーケー、これでいい、正しいのかどうか定かではないが、今はとにかく全身から汗を絞りだそう。

この甲斐あってか少しスッキリした。そして、そのまままた曖昧な眠りについた。


翌朝起きると熱は引いていたが、今度は空前絶後の倦怠感とだるさを身に纏っていた。人生史に刻まれるほどのだるさで、何とか出勤はしたが、ランチのスタンバイにあくせく動くスタッフを横目に「ごめん、10分だけ横になっていいかな」と言って横にならせてもらった。これもまた初めてのことだ。どれだけヘビー級の2日酔いになったとしてもこれはない。けれど座ってることもままならないほどのだるさだったのだ。

 

その日を何とか乗り切ると気だるさは多少和らいだものの、今度は喉の痛みが台頭し始めた。やれやれ、だった。症状が刻々と一日単位で変わっていく。火曜の夜に感じた異変(微熱)は木曜日には喉の激痛へと変貌していた。そうとは言っても喉が痛いだけなので名刀「のどぬーるスプレー」(小林製薬)で対処していた。僕はこの名刀に絶大な信頼を寄せているのだが、いつもと違ってどうも効き目が弱い。というよりも、吹きかけた時の痛みが尋常じゃなく、呼吸を見失うほど。もはや自ら患部に毒を吹きかけているようにしか思えなかった。

そう疑心を持ち始めた時、今度は奥底からヤツが蠢動をはじめた。これはまさか世に言う扁桃腺か…。扁桃腺が異常に膨れ上がってるのに気づき、今度は対扁桃腺用に組織された特殊部隊「ハレナース」(小林製薬)を投入。これで引導を渡せると思った。

 

金曜の営業を終え、いったん安堵した。症状がよくならなかったとしても明日はゆっくり眠れるし、病院にも行ける、と。ハレナースの効力あってか、痛みも幾分引いていたし、多少気を緩めていた。が、いざ寝てみるとどうにもこうにも痛い。どうにかこうにか寝ようと試みるが、どうにもこうにも扁桃腺が膨張している。爆発寸前のセルみたいだ。

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どうにも寝付けないので、気を紛らわせるために借りていた『アベンジャーズ-エイジ・オブ・ウルトロン-』を観る。クライマックスのシーンでヒーローのキャプテン・アメリカが味方を鼓舞するために「倒れるまで戦おう、そして、死んだら立ち上がれ」というパワーハラスメントの極致のようなことをとても堂々と、とても勇ましく、声高に叫んでいる。

 

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朦朧とした意識の中で「死んだら立ち上がれ」という言葉が繰り返される。

 

…。

 

 

…。

 

 

結局、そのまま眠ることなく、病院に向かった。

 

医者が僕に言ったのは「ヤマモトさん、あなた、今日死ぬかもしれないの」ということだった。

 

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死んだら立ち上がれ

 

TOKYO都台東区アキバ系路地裏経済論④Fin

もともとは消費税についての話だったのだけど、こういうことをこうやって書くこともなかなかないので、いい機会だと思って、特にまとまりを考えることなく、話を大きく迂回旋回しながら思いのまま書いてみた。


J×Jの運営のことだけ考えれば、景気が後退しようとも、パワフルな外国人労働力がどれだけはいってこようとも、世の中から歓送迎会と打ち上げとオフ会と忘年会がなくならないかぎり、それなりには運営していけるだろう。けれど、たまに意識を意識的にオーバーに広げてみるのも悪くない。いくら路地裏の小さな店の経営者と言えど、経営者であるならば、目の前のことだけではなくちょっと遠くまで目をすぼめなければならないし、視野だけでなく、視点も、視座も、ポジショニングをうまく変えながら、色々な角度を試していかなければならない。


例えば「消費税10%」というワードを単一角度でフォーカスするならば「ああ、税金がまた増えるなあ…」になってしまうのだけど、いくつかのポジションからいくつかのフォーカスで眺めると、そのワードはもっと立体的になり、他の側面が浮かび上がる。そうした周辺状況や周辺情報をひっくるめて、課題にアプローチした方が遠回りに見えて、案外解決の糸口が広がっていたりする。

 

重複になるが、僕はこの増税をわりと重く捉えていて、結果、10月1日からいくつかの改定に踏み切る。うまくいけばいいけども、うまくいかないかもしれない。仮にうまくいかなかったとしても、どうにかするしかないのでどうにかするのだけど、僕が今この路地裏で思うことは「日本を運営している皆様、みんな負担が増えるんだから、その分今よりもちょっとだけいい世の中にしてくださいよ、頼みますよ」ということで、およそ「経済論」とは呼べない、平民のただただ単純な「祈り」だ。

 
でも結局、つまるところそこに尽きる。2%分、世の中が少しでも充実、もしくは好転するならば納税する側も納税冥利につきるというもので、ここがあやふやにされてしまうとただやさぐれるだけだ。

 

以上、TOKYO都台東区アキバ系路地裏経済論、消費税編。

 

 

 

TOKYO都台東区アキバ系路地裏経済論③

自店は中小でもないし、スタートアップですらない。ただのイチ飲食店だ。そうした最弱の存在に救いの手はないかと言うとあながちそうでもない。税金は事業主にとって確かに荒々しいものではあるのだけど、一方で時に筋道を示す。

例えば、助成金補助金

これは挙げだしたらキリがないのだけど、この4年間で僕が実際に申請し、実際に受理されたもので言えば、

【小規模事業者持続化補助金

これは商工会議所管轄で、ごく簡単に言えば、店舗運営のために設備などを導入した場合にその3分の2を補助しますよ、というもの。上限70万。なので70万で内装をリニューアルした場合、その3分の2相当の46万を補助してくれる。すなわち通常であれば70万かかる買い物が24万で済むということになる。*これについては別途ブログで詳細を書く予定

 

【キャリアアップ助成金


厚生労働省管轄。キャリアアップ助成金というのは総称なので一言で表すことはできないのだけど、厚生労働省のHPに記載された概要には、

有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(以下、「有期契約労働者等」という。)の企業内でのキャリアアップを促進するため、これらの取組を実施した事業主に対して助成をするものです。


と書かれている。

これらは税金や雇用保険料をベースに予算が組まれているもので、こうした補助金助成金の要件を満たし、申請することはある意味、自分が納めている税金の有効活用するという側面も持つ。だから税金に嘆くばかりではなく、逆にそれを活用するためにはどうしたらいいかも事業主は模索すべきだと思う。例えば50万の助成金が支給された場合、飲食の損益計算書上10%の純利益を目安とするなれば、50万というのは500万の売上相当となる。500万という売上が高いのか低いのかは勿論店舗によってそれぞれだが、10〜20坪の店からすれば繁盛店であれ不振店であれ、それなりの金額ではあると思う。

僕自身はまだ取り組んだことはないのだけど、インバウンド/外国人/外国人留学生が要件になっている補助金助成金に興味を持っている。これまたかなりの数があるし、ややこしいものも多いのだけど、例えば英語表記のメニューブックを作成したり、外国語表記のHPを用意したりした場合に補助されるものもあれば、外国人を雇用した場合に発生する助成金もある。人手不足が深刻な飲食業界もチェーンだけでなく、個人店ももう少し目を向けてみてもいいんじゃないかと思っている。


数年前、コンビニに外国人スタッフが入るようになった時、大丈夫なのかなと心配したけれど(勿論うまくいかないケースも多々あるかとは思うが)、コンビニにおける外国人労働者の数は飛躍的に上昇し、都内においてその光景は日常と化している。飲食においてもこの傾向は今後より加速していくだろう。

 

社内に中国人の営業やインド人のSEがいるなんていうのはけして珍しくないはずだが、浸透度で言えばグローバルに展開する大企業の方が高いと思える。中小の外国人雇用へのアプローチはまだ甘く、つまり現在日本で働く外国人は極端に2極化している。エリートの方々は大企業で働き、留学生を中心とした若年層はコンビニや飲食店で働く。建築現場でも外国人労働者を多く見かけるようになった。


けれど、この2極化もやがて徐々に解体されていくだろう。もっと普通に、もっと日常的に外国人雇用が至るところで発生していくことになると思う。グローバル化とは日本人が海外に出やすくなることではなく、海外から日本に人材が入ってくることを指し、良くも悪くも切実だ。J×Jの内装事業において解体をモンゴル人の業者にお願いしているのだが、内装のハヤカワは「彼ら、めちゃくちゃ働きますよ。仕事、全部彼らにとられちゃうんじゃないですかね?」と言う。また最近、担当する飲食店のオーナーが中国人が多いことも懸念している。この夏、ハヤカワが関わった2件の店舗は2件とも中国人がオーナーだ。「そのうち中国人だらけになりそうですよね、彼ら、資金力とマンパワーがあるから若い個人事業主なんて太刀打ちできないですよ」。

 

そもそも少子化で日本人の労働人口が少なくなってきている中、海外から労働力を招致するのはもっともな話だ。けれど、お金が日本国内でまわらなければ景気的にはあまり意味がないように思えるし、そもそも若い外国人労働者のパワーと野心が本気で押し寄せれば、一部の貧弱な日本人はひとたまりもないのではないだろうか。近い将来、「甘ったれた日本人よりもハングリーな外国人の方が働き者だぜ」と言って、外国人の採用を優先する経営者が多くなってきたとしても不自然ではない気がする。

 

これに加え、国から補助金助成金が出るのであれば(そう長くは続かないと思うが)外国人採用も先行して積極的になるべきではないかと考える。AIは確かに世の中の多くの仕事を人間から剥奪するだろう、けれども同時にAIと対極に位置するシンプルかつハングリーなマンパワーも単純に脅威だ。働き方改革コンプライアンスもライフワークバランスもあくまで仕事と働き口があっての話であって、仕事そのものがなければ改革もバランスもない。日本国内において右へ倣えの挙国一致で「ゆとり」を謳歌したとしても、国際社会は競争をやめないし、情報化はよりシャープに、よりドライに労働そのものを、労働者そのものを合理的に仕分けしていくのだと思う。

 

そう考えればこの手の話は「ゆとり教育」の功罪を問う議論に似ている部分があると思う。大義を掲げて教育の改善に取り組んだが、国際学力テストで順位を落としたことで学力低下が指摘され、結果的には「脱ゆとり」へと方向転換した。「あれ、気づいたら他の国に抜かされてました、てへへ」というのが国家規模で起こってしまったとしたら、それは「やっぱり円周率は3.14にしましょ」では済まされないような気がする。

授業時間も労働時間も削減そのものが目的ではなく、円周率が3であれば「ゆとり」が生まれ、残業がなければ「バランス」が生まれるというものではないはずだ。重要なのは効率化によってもたられた時間をどう使うかであり、ゆとりによって何を生むか、何が生まれるかであるのにも関わらず、この部分に関しては誰も何も追わない。逆に考えれば、そうした趨勢であるからこそ逆張りは有効であるかもしれないし、抜きんでる人は抜きんでる。結局のところ、何がどうあれ、やるやつはやるし、やらないやつはやらないという原理主義だけが静かに佇む。

 

 

TOKYO都台東区アキバ系路地裏経済論②

飲食のつながりの中でも楽観的な経営者と悲観的な経営者とに別れる。


もともと税抜き表示をしている店にとっては「×0.08を×0.1にするだけだからさー」と言う。そう言ってしまえばそうなのだけど、軽減税率の絡みがあるのでそう安直にもなれない。

今まで税抜き100円のものを仕入れたとき8円の消費税を払い、税抜き200円で売った場合、16円の消費税をゲストから預かることになる。この差額、16円-8円の「8円」を事業主が税務署に納めなければならないのだが、軽減税率が適用されることによって、仕入れは8%のまま、けれど納税は10%になるので、このケースで行くと20円-8円となり、納税は12円となる(実際には仕入れだけではなくその他の経費も絡んでくるので一概には言えないが)。

それにしたって、事実上売上があがるんだからいいじゃん、となるのだけど、それはあくまで増税後も来客数と客単価に変化がない場合だ。これに加え、売るものが弁当やケータリングの場合、8%で販売することになる。この場合、従来のままで変わりないように思えるが、実際には包材や各備品、各経費に関しては実質値上がりすることになるので、提供価格を変えなければ単純に利幅は狭まる。


このように増税の影響度はケースバイケースではあるが、自店に限って言えば、僕は増税の煽りをモロに受けるのではないかと思っている。その煽りをどうすれば抑えられるか、どんな工夫が必要なのかを考え、対策を講じていかなければならない。

というのを前々から考えていて、10月以降、諸々の変更を施していくのだけど、それについてはまた別途別記事で紹介していくとして、この消費税10%をもうちょっと深堀していきたい。

消費税10%とともに令和元年10月より変わるもの、「最低賃金」。最低賃金はわりと頻繁に改訂されてるし、消費税が上がるタイミングに合わせて最低賃金が上がるのも自然と言えば自然。でもこれはあくまでボトムの話であって、消費者全体に恩恵のある話ではない。

これとは別に毎年、春季労使交渉(春闘)がある。春闘とは毎年2月頃に賃金のベースアップ(ベア)や労働条件の改善を労働組合側が経営陣に交渉する労働運動のこと。安部政権は2013年以降、消費税増税を見据え、法人税の減税と同時に毎年のように賃上げ請求を経済界に訴えている。去年においては「3%」という具体的な数字まで提示したが(実際は2.54%だった)、本来、労使に委ねられる賃上げ交渉を政府が介入・牽引することは「官製春闘」との批判がある。今年に関しては数値目標の設定は避けたが、賃上げ請求への期待に変わりはなく、結果的には2.46%に着地。例年2%未満というのがほとんどだっただけに、去年は下回るにせよ、悪くない数字なのだろう。

 

要は、「社長さん、法人税を下げますよ」→「そのかわり、従業員さんの給料に反映させてね」→「従業員の皆さんはこのベアをもとに消費税10%に備えて」、という話で、目標値には届いてないにせよ、流れとしてはそうなっているし、数字的にも動いている。そもそもそうでないと消費者は単純に2%の負荷を単純に背負うことになる。

けどまあ、これもまた大企業の話で路地裏の飲食店にはあまり関係のない話だ(もっともこうした循環の一部に「じゃあ今度の打ち上げはJ×Jにするか」という話が少しでも紛れればそれは幸いなことなのだけど)。安倍政権の経済政策を批評する際、よく大企業優遇が取りざたされ、もっと中小やスタートアップにウェイトを寄せないと日本はよくならない、と言うし、「そうだそうだ!」とも思うけれど、僕個人が前提として思うのは「仮にどうであれ、よりしなやかにたくましい事業体(店)になるしかい」、でしかない。店がどんな窮地に陥ろうとも、安倍政権も経団連もましてや税務署は助けてくれない。当たり前だ。むしろ税金の取りっぱぐれを少しでもなくそうと首を絞められているような気がしてならない。

 

もっと言えば、自店は中小でもないし、スタートアップですらない。ただのイチ飲食店だ。そうした最弱の存在に救いの手はないかと言うと、実はあながちそうでもない。税金は事業主にとって確かに荒々しいものではあるのだけど、一方で時に筋道を示す。次はそうしたところに触れていきたい。

 

 

TOKYO都台東区アキバ系路地裏経済論①

10月1日より消費税が10%となる。ニュースやネット記事で見かける世論調査を眺めながら思うのはこれがどう影響を及ぼしていくことになるのか結局よくわからないな、ということ。あまり気にしていないような人もいるし、過剰反応を示す方もいる。けれど、2014年の時のような駆け込み需要はなさそうで、それは日本が増税に対して賢く冷静になったのか、あるいは感覚的にただ単純に鈍くなったのか、それも判然としない。僕個人がそんなこと知る由もない。駆け込みがないということは増税後に反動的な冷え込みもないだろう、という希望的な観測もできる。仮に反動があったとしても、迫る東京オリンピックに向けて劇的な落ち込みはまぶされたまま、なんとなく推移していくようにも思える。

僕は経済のことはさっぱりわからないけれど、オリンピックを一年後に控え、メディアをはじめ各業界がこぞってこれを打ち出しているわりにはポジティブな景況感はあまり感じない。正直に言って「こんなもんかー」という肩透かしの感が強い。実際に帝国データバンクが発表している景気動向調査は「国内景気は8か月連続で悪化」とし、日経平均も今年一年大きく上下することなく20,000〜22,000で推移している。安定していると言えば安定しているのかもしれないけど、これだけオリンピックで沸き立ち、街はインバウンドで溢れ、オフィスビルとマンションとホテルがラッシュで建設され続けているのにも関わらず、経済的な盛り上がりは欠けているようにも見える、そして実際的な数字は実際的に特にもたらされていない(勿論、ダイレクトな恩恵を受けているところも多々あるが)。

 

前回の東京オリンピックは1964年。終戦からわずか19年しか経っていないのだ。東京大空襲を受けて焼け野原になった街に次々と近代的なビルが建ち並び、スタイリッシュな高速道路が立体的に首都を張り巡らし、空を突き刺すような真っ赤なタワーが聳え、見たこともない外国人と文化とコミュニケーションが完全なるオフラインで行き交う。ほとんど全てが既視感のない未体験領域だったはずで、そう考えればその時の東京の、国全体の高揚感たるやすさまじいものがあったのではないかと思う。そして、その熱狂を携えたまま高度経済成長はより熱を帯びて加速していくことになる。

 

何から何まで新鮮であったろう1964年と、ほとんど全てが既視感の洗練と更新である2019年ではやはり関心も消費活動も経済動向も同じにならないのは当然だ。というより、スポーツというのは本質的に時代や情勢を超越したものであり、文化や言語を凌駕したものであるから、尊く、夢があり、とりわけオリンピックはそうしたものの集合であり、だらからこそ世界一の祭典なのだ。本来的にはそれだけでいい。スポーツを楽しもう、というシンプル。だがそのまわりにホテルが建つから、そのシンプルは別のシンプルを伴う(東京都の試算では「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」は全国で32兆円にのぼるとしている)。


長々と書いてきたけれど、話を戻すとその中での「増税」なのだ。

 

今回も「延期」について検討されたのだろうけど、この機を逃したらいつ上げられるんだ、という話になる。僕がそれを決定する人だったとしたら、多分、何が何でもこのタイミングで施行すると思う。飲食店の僕としてはほんとに憂鬱なことだけども、まあ仕方ない、もう仕方ない。

 

まあ仕方なく、もう仕方ないという状況の中であれこれ考えたことを「TOKYO都台東区台東アキバ系路地裏経済論」と題して、つらつらと綴っていこうと思う。繰り返すが僕は経済のことはさっぱりわからない。信号待ちの時にスマートニュースの経済欄を流し読みするくらいだ。路地裏の飲食店でビールを飲みながら日本経済をよくわからないまま憂えているに過ぎない。

だから、路地裏経済論。

 

 

【J×Jの内装事業/DIO】銀座編⑨総括

結局、スムーズに明け渡しとはいかず、その後も細かい修正や追加工事の対応に追われた。このあたりも内装業ではよくあることだ。けれど、多少工期が伸びたにせよ、最終局面でクライアントと元請け/下請けが話をこじらすことなく、うまくまとまったことに多いに安堵した。ここで揉めると全てが台無しになる。

 

ハヤカワは四六時中現場にいた。孫請けとして入り、①解体〜⑬家具搬入まで基本的に全ての工程に立ち会っている。そこにオーナーさん(クライアント)も来る。当然、ここをこうしてほしい、ああしてほしいというリクエストは直接ハヤカワに伝えられるのだけど、僕らが勝手に工事内容をいじることはできない。あくまで僕らは元請け、下請けからの指示に遂行する孫請けなのだ。もしオーナーさんが何かを求めるのであれば、元請けに伝えなければならない(一番現場をよく知るハヤカワにお願いしたいのがオーナーさんとしての自然な心情だろう)。が、元請け、下請けは基本、現場にいない。ここに難しさがある、そしてこれもまたよくあることだ。

反対に一番の成果としては、とにもかくにもゼロからやりきったという部分にある。チームをまとめる側もそうだけども、チームに参加する側も最初は構える。けれど一度仕事を通してしまえばお互いになんとなくつかめるものだ。今回のこの銀座を通して培われたネットワークは当然、今後に活きてくるし、いざ新しいプロジェクトに取り組むとき下地ができた状態でスタートを切ることができる。


「自分的に一番、達成感がある部分はどこなの?」とハヤカワに聞いてみた。

 

「トイレですね」と即答が返ってきた。

「今回、一番厄介だったのがトイレなんです。壊してみたら色々問題が出てきてトイレの場所を変えざるをえない状況になってしまって…。で、新しい設置場所は勾配がとれなかったんです。そうなると床をあげるしかないんですけど、そうすると天井が低くなって圧迫感が出る。でも甘い傾斜だと下水が逆流してくる。これをどうにかできないか水道屋さんと知恵を絞って取り組めたのが一番エキサイティングでしたし、やってやった感ありますね。どうしてもパッと目につきやすい造作や塗装やクロスに目が行きがちなんですけど、こういう誰も気にしない部分、誰もが当たり前だと思っている部分に職人さん(水道屋さん)の匠が光るんですよね」

今回の件である程度お店作りの流れは理解できたつもりだし、多いに勉強になった。けれど内装そのもののことをあれこれ語ることはできない(今回のこの一連の記事はただの事実をただ並べているだけだ)。が、その話を聞いて、内装も面白いなあとしみじみと思った。

 

そして、トイレを眺めるハヤカワはとてもいい顔をしていた。

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置きっぱなしにされたインパクトとボールペンが少し胸を打つ。




 

 

 

【J×Jの内装事業/DIO】銀座編⑧

⑫建具工事というのは「工作物に木製または金属製の建具等を取付ける工事」。サッシ、シャッター、自動ドアの取り付けなどがこれにあたる。最後の難関となったのは入り口ドアの取り付け。寸法を測り、間違いなくピタっとはまるように設計されたドアを発注したのにも関わらず、いざ取り付けようとすると、どうしてもハマらない。業者さんに直してもらう時間的余裕もないので、もう自分でどうにかするしかない。

蝶番の場所などを工夫して調整を試みるも何度も失敗。

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であればと、取り付け部分を削ってスペースを作ってみる。この作業が大変だった…。

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何度もトライ&エラーを繰り返し、ようやくおさまった。ただドアがついただけにも関わらず、ドアが閉まった瞬間、心から歓喜した。このあと地上に出て(お店は地下1階)駐車場にて缶コーヒーで乾杯。たまらなく美味しかった。

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このようにして最後の難関を乗りきった。いよいよ大詰め。⑬家具の搬入。

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あとはクライアントに明け渡すのみ、となった。

 

 

 

【J×Jの内装事業/DIO】銀座編⑦

「仕上げ工事」と一言で言ってもこれが意味する範囲は広い。仕上げ工事=内装工事と同じ意味合いで使われることも多々ある。


ここで言う仕上げ工事とはまさに内装を仕上げ、クライアントに明け渡しするための最終工事全般を指す。具体的には⑩塗装工事、⑪クロス張り、⑫建具工事にあたる。


⑩塗装は文字通り。今回はこうした塗装機も使用した。

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⑪次にクロス張り。クロスで大分店内の様子が変わる。

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壁際のクロス張りがなかなか難しい。

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また、朽ちていた階段の修繕も仕上げ工事の一部だ。

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こうして一気にお店が出来上がっていく。この局面になると細々とした雑用も増えてきて、僕やスタッフが手伝いに行くこともしばしば増えてきた(手伝えることが増えてくる)。

 

お手伝いしてくれたスタッフ碧くん(この動画はまだ初期の頃だけど)。

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飲食の営業が落ち着いたのち、オンボロの原付に乗って昭和通りをまっすぐ抜けて銀座まで向かう道中が意外とけっこう好きだった。勿論、飲食仕事のあとのそれは大変でもあったのだけれど、文化祭の準備のような独特なテンションの中、何か特別なことをしてるみたいで楽しかったのだと思う。

 

納期が差し迫る中、僕ら(というものおこがましいが)に最後に立ちはだかったのは⑫建具工事だった。ドアを取り付ける、そんなシンプルなことがここまで厄介なことだとは思いもよらなかった。

 

 

 

 

【J×Jの内装事業/DIO】銀座編⑥

⑧造作工事。内装においてもっとも花形となる仕事になるのが造作。柱、梁などの構造部分以外の仕上げ工事、天井や床、階段、敷居などの室内装飾となる仕上げや下地を材料から組み立てる工事の総称、つまり言わゆる大工さんの領域だ。銀座のこの物件ではカウンター造作をメインに、付随して棚やドアなどを組んでいく。ここから徐々にお店がお店になっていく。

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⑨電気工事は電気屋さんを呼んで対応してもらった。合計で1週間くらい入ってもらった。今回の工事の中でもっとも予算がかかった部分だ。やはり、水道・電気などのインフラ系はどうしても費用が高くなる。

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各場所に電源コンセントを配置し、電源を供給する。電気機器及び照明器具に接続するとともに、この電気工事を通してエアコン設置やダクト工事へと展開する。

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他の厨房器具の搬入も始まる。

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そして、最終フェイズである「仕上げ工事」に移行していく。

 

 

【J×Jの内装事業/DIO】銀座編⑤

結局、左官はハヤカワ自身が仕上げた。前の職場が社長と二人の二人三脚だったこともあってデザインオフィスでありながら、現場に出ることが多く、職人さんたちに混ざって自ら体を動かし施工に参加していたことあって、各工程全般に精通しているところがハヤカワの強みだ。

 

ここから④防水工事へと移行する。言葉のとおり、水の侵入を防ぐための工事だが、厨房など内部から客席への浸水を防ぐとともに、外部からの浸水を防ぐ。

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そして、その防水を守るための措置として、保護モルタル(コンクリート)を薄く被せる。

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この上に、実際の厨房レイアウトの縮尺を取っていく。

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次に、⑤配管工事。水道やガスなどのインフラを引き込んでいく。

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ケルトンの場合、こうしたインフラ部分からゼロから作り上げていくことになるが、居抜きの場合、水道や電気はいじらないことも多々あると思う。けれど、どうしてもいじりたい、いじらなきゃいけない場合はある程度のコストを覚悟しなければならない。こうした工事を行うには専門の資格が必要となり、自分たちではどうにもならない。居抜きで安く抑えようとしても、ここを変えようとすると予算は跳ね上がる。自分がお店を始めた時はここの認識が甘かった(結局、自店は何もいじらないことにしたのだけど)。

 

そして、⑤土間打ち。これは厨房の床を作る工事。この工程を経ることによって、厨房内で水を流せるようにできる(J×Jのようなキッチンだと水は流せない)。次に⑥軸組み。これは言わば側壁の下地工事で、 配線・配管を壁内に収納し外部から見えないようにするための措置。

 
この①〜⑥の工程を経て、基礎及び土台作りの完成となる。


ここから先の工程でようやく、この店のこの店らしさが施されていく。