Journey×Journeyと山本ジャーニーの冒険-独立・開業と「旅食」の航海日誌-

秋葉原の多国籍・無国籍のダイニングバー「Journey×Journey」。独立開業までの過程とオープン後の日々を綴る、山本ジャーニーの営業日報。

J×Jの石の上の4年目への冒険

「3周年の時は感慨深かったな」

と、三か月前くらいに知り合いの飲食店経営者が言っていたのを思い出した。その方は先日5周年を迎えたところで、僕にとっては遥か先を走る先輩にあたる。

 

「やっぱり3年ってひとつ節目だと思うんだよね」と彼は続けた。

 

J×Jも無事、4年目を迎えることができた。皆様の日頃のご愛顧に厚く御礼申し上げます。けれど、先輩が言った「感慨深さ」があるかと言うと、実際そうでもなかったりする。日々をこなすのにわりと精一杯で、予期せぬ事態が次から次へと持ち上がる。どれだけ遠くまで見通したとしても、どれだけ細部まで目をすぼめたとしても、不測や想定外は鮮やかに、そして劇的に、神出鬼没を繰り返す。

 

石の上にも3年、という諺がある。先輩や上司が若手によく言うフレーズだが、誤用とまでは言わないものの、この用い方にはいささかの強引さがある。「3年」というのはあくまで「ある一定期間」を喩えた表現であり、具体的な年数として「3年」を示したものではない。「石の上に座ると最初は冷たいけれど、ずっと座り続けているとそのうち自分の体温であたたまり、そのうち石そのものがあたたく感じるようになる」というのがこの諺が意味するところだ。

 

3年前、知人や身内、友人から多大なる応援やお祝いをいただいてオープンすることができたJ×Jであったが、それは物事の一側面であり、そうした一側面だけで立体性は保てない。お店は継続できない。他方から見ればJ×Jが腰を下ろしたその石は、多くの石がそうであるように、とても冷ややかなものであった。ゼロから物事を始める時に伴うその冷たさに動ずることなく、平常心を以って居座るのにはそれ相応の覚悟と根気がいる。辛抱強く我慢すればやがて物事は好転する、とそんな甘いことは思わない、けれど、「耐えないかぎり、石は温まらない」、これも事実であるように思う。げんなりすることも、がっかりすることもあるけれど、投げ出したり、腐ったりさえしなければゼロにはならない。100になることはないかもしれないけれど、ゼロになることもない。

 

1年目の夏に男女6人でご来店いただいたゲストの中で、急に体調を崩し、途中で帰られた女性がいた。全員近くに勤める会社員の方々で、それから半年ぐらいして今度はその6人を含めて大人数の貸切でご利用いただいた。

 

「実は半年ぐらい前にこのお店で飲んでたんですけど、その時、〇〇さんが急に体調崩しちゃって…。あれから半年、今日は〇〇さんがめでたく産休に入られるということで、お店はやっぱりここだろうと思ったわけです」

 

と、幹事の方が挨拶でそう言った。

 

「ここに来るとあの時のつらさを思い出すんですけど…」と苦笑いしながら、「元気なコを生みます」と妊婦さんは照れ笑いしていた。

 

それからさらに2年経って、この時の幹事の方がつい先日、再び送別会で自店を使ってくれた。ご挨拶がてらに、少ししゃべっているとあの時の女性の話になった。僕としてはその後どうなったのか少し気になっていたので、ちょうどいい機会だった。

 

「今、二人目を妊娠してるよ」と幹事さんに言われ、ちょっとびっくりした。

 

けれど、3年とは実にそういう歳月だ。

 

当時、着たくもないスーツを嫌々纏っていた新入社員の方々が今ではお洒落なスーツを見事に着こなしながら、飲み会の勝手がわからない後輩をフォローしたり、世話をしてたりする。飲みすぎて、とろけるようにとけて、内に秘めた小悪魔を全開に解き放っていた女の子が入籍を報告していたりする。自店で転職の誘いを受けていた方が実際に転職していたり、海外赴任が決まって外国に行っていた方が日本に戻ってきたり、かと思えば、「秋葉原は今日が最後になるんで、お昼食べにきました」と言ってくれる方がいたりする。そうした交差が身内や友人ではなく、お互いに名前も知らない間柄の中で、唯一の共通項である店を通して行われる。僕は彼らの人生がいかようなものか、まったく知りえないのだけど、一方で彼らの人生の一部に確かに立ち会っている。そして、3年という時間を経て、その一部と一部はストーリーとして連続性を帯び始めている。

 

3年とは実にそういう歳月だ。こうして夜遅くにお店で独り、ブログを書いていると、その歳月の重みに改めて驚かされる。

 

この3年の間に自分自身がどうなったかについてはわからない。それを測れる尺度はない(残念ながら、お金は全然貯まっていない)。


一周年の時に書いたブログはこれで、

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2周年の時に書いたのはこれ。

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自分自身はこの3年でどのようになっただろうか。自分ではよくわからないけれど、ただ、仲間は増えた。

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自分がこの3年でどう成長したか、それを測れるのは、それを示せるのは、僕がこれから、この仲間たちと一緒に何をするのか、何ができるかに由るのだと思う。それが本当に楽しみだ。

 

どれだけ遠くまで見通したとしても、どれだけ細部まで目をすぼめたとしても、不測や想定外は鮮やかに劇的に神出鬼没を繰り返す。それはきっとこれから先も続いていくのだろう。だけども、やっぱり楽しみで、楽しい。仕事をするのが何よりも楽しい。

 

3年前の自分はともかく、15年前の自分とは変わったなと思う。社会に出るのも、就職活動するのも嫌で嫌で仕方なく、ずっと放浪して生きていたいと思ってた自分に「働くってけっこう面白いぞ」と偉そうに言いたい。「石の上にも三年だ」と先輩風吹かせたい。

 

“石の上に座ると最初は冷たいけれど、ずっと座り続けているとそのうち自分の体温であたたまり、そのうち石そのものがあたたく感じるようになる” 

 

 

3年経ち、自分自身のことはさておき、石そのものは今、あたたかい。

 

 

 そのあたたかな石の上の4年目を冒険させてくれるスタッフと、取引先と、ゲストの皆様に心より感謝。

 

 

 

 

J×Jの冒険-2015年7月後編「スペイン・ラウンド」-

5月のGWにKと飲んでる間に企画したイベントが近づいてきた。

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J×J主催の初めてのイベントは「スペイン・ラウンド」。その名のとおりスペインをテーマにしたイベントで、スペインにちなんだドリンクを出しながら、スペイン料理を提供する、というシンプルな構成。けれど、特定の国にフォーカスすることで通常営業ではできないパフォーマンスができるという点で、僕にとっても楽しみなイベントになった。

「まるさんに手伝ってもらうんで、当日、ヤマモトさんはホールで飲んでてください」とKは言った。確かに僕が料理を担当するとなると、「K主体のイベント」という感が薄れる。それでは意味がないので、僕は基本ノータッチの姿勢でいた。

というわけでフードメニューに関してはKとまるちゃんが二人で打ち合わせしながら決めたのだが、ドリンクに関してはスペインビールやサングリアの他に試したいことがあったので一つリクエストを出した。それはスペイン・ラウンドに「世界遺産カクテル」を提供することだった。

世界遺産カクテル」はオープンする前からずっとやりたいなと思っていたメニューだったのだけど、そこまで手が回らない上に、そもそもカクテルに関する知見もほとんどない。そこで、世界一周仲間のバーテンダー(エビちゃん)に相談してレシピを考案してもらっていた(世界遺産カクテルについてはまた別の記事で触れる)。5種類ある世界遺産カクテルの中に『サグラダ・ファミリア』があったので、ちょうどいい機会だと思って、スペイン・ラウンドに絡ませることにした。

世界遺産カクテル『サグラダ・ファミリア』はこんな感じ。

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サングリアをベースにしたカクテルで、サグラダ・ファミリアの螺旋階段を表現するためにレモンの皮を使ったホーセズネックスタイルにしてある。

世界遺産カクテルをスペイン・ラウンドで提供するにあたり、レシピの考案者であるエビちゃんもイベントに参加してくれることになった。準備はこれで概ね整った。

イベント前夜、Kは夜遅くまで練習と仕込みに励む。

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そして、当日。

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7月最終週の土曜日、そして墨田川花火大会と被る日程だったにも関わらず、大勢の人が参加してくれた。

 

助っ人として参加してくれたエビちゃん

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当時下北沢のバーテンダーだったエビちゃんは今は渋谷で『ebian』という自分のバーを経営している。

当日厨房に立った3人で記念撮影し、

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時間はあっという間に駆け抜けた。

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何かと緊張してしまうKにとって、この時の達成感と解放感は並々ならぬものだったと思う。僕自身もKが頑張ってくれたおかげでフロアで飲むことができたし、イベントの終了を受けて多いに安堵し、おそらくかなりのお酒を飲んだ。この日、ゲストが帰ったあと、Kと何をどう話したかよく覚えていない。

よく覚えていないけれど、日高屋に向かう二人の背中がこの時の昂揚を示しているような気がする。

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この時すでに次の渡航先を決めていた。次は日本。真夏のスペイン・ラウンドは9月のジャパン・ラウンドにつながっていった。

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J×Jの冒険-2015年7月前編「まるちゃんとパニパニ」-

「まるちゃん」は僕が独立する前に働いていたお店PUSHUP(@秋葉原)の同僚で、一年間一緒に切磋琢磨した戦友だ。まるちゃんについては以前も記事にしている。

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僕が前職のPUSHUPを辞めた数か月後、まるちゃんも同店を退職した。そして、彼女が次のステップに行くまでの踊り場として、オープン当初から断続的にJ×Jを手伝ってくれていた。

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ワックス掛けする、まる。

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配膳する、まる。

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飲む、まる。

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食う、まる。

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休憩中にお外でモンスターハンターをする、まる。

こんな感じで働きながらも悠々と過ごしていた。一方で、まるちゃんにはパニーニ屋さんをやってみたいという憧れもあり、それをどう実現していくかを模索していた時期でもある。

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当時、J×Jの店頭で売ってみようかという話もあった。

営業が終わったあと、どうすればうまくいくか、朝まで試食とミーティングをした日もあった(いやはや、僕らはこの頃元気だった)。

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近隣のサンドイッチを一通り買ってみて試食。


試行錯誤の結果、J×Jのスタッフとしてではなく、個人として前職のPUSHUPからキッチンカーを借りて、3か月間営業してみるということで落ち着いた。こうして、「パニパニ」は生まれた。

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7月の準備段階を経て、当初の予定通り8月から10月まで3か月の期間限定営業。その後、11月からアルバイトとして正式にJ×Jに加わることになった。

 

J×Jの冒険-2015年6月後編「弾力」-

売上は当初の想定よりもずっと低かったけれど、とりあえずひとまずオープン直後の狂騒曲が落ち着いてきた6月。身体的にも気持ち的にも少し余裕が出てきて、一息つけるようになってきていた。

この6月はお祝いごとや、送別会が多く、そうした機会に自店をご利用いただくことができてそれが嬉しかった。飲食で働いているとなかなか時間的な融通がきかない。けれど自店であればそれも問題なく、改めて「自分の店を持ったんだな」としみじみとした記憶がある。

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大学時代の友人の結婚祝い。

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送別会。

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旅人の再会と何かのお祝い。

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この頃、お祝いごとには鯛をだしていた。

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J×Jでの初めての貸切イベントはトモ君。

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テーマは「インド料理×中華」。

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料理を見ているだけで当時を懐かしく思える。

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旅好き/旅カフェ好きの方々の集まり。自店企画以外では初めての立食パーティーだった。

身内や近しい間柄でのご利用ではあったけれど、このようにお店の使われ方が広がっていった時期だった。自店のような立地の悪いお店では「お店の使われ方」というのは重要なポイントになる。正方形型のシンプルな間取りはそれによるネガティブ面もあるのだけど、利点もあり、選んだ(あるいは与えられた)スペースをどうすれば有効に活用できるか、を実際に思索し続けた。その結果がのちの営業スタイルにつながってくる(とは言え、2018年現在、「お店の使われ方」としての幅は一時期に比べて縮小傾向にある。もっと自由に使ってもらえるよう、取り組んでいかなきゃなと記事を書きながら痛感)。

その一方、メニューのリニューアルにも着手。

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レギュラーメニューのマイナーチェンジであったり、

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同じメニューの食べ比べをしてみたり、

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新メニューの開発などに努めた。

これについては意図的に意識していたことであるのだけど、特にオープン当初においてはメニューも「お店の使われ方」もあまり決めつけすぎず、弾力を持たせたほうがベターのように思える。出だしが肝心であるのだけど、最初から完成度を求めるとしんどいし、のちの軌道修正がききにくい。これだけは絶対、という部分以外は極力固執せず、トライとエラーに素早く柔軟に反応できる体制を作っておくほうが大切だと思う。そして、思うにそれは飲食業だけにあらず、まして、お店作りに限ったことではない、きっと。

と、ブログを書きながら、ちょうどトモ君とLINEのやりとりしていたので、上記イベントのこととそこでトモ君が出したメニューについて触れてみると、下記のようなレスが送られてきた。

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きっと数年後からすれば「今」もまた同様に映るのだろうけれど、やはり、こだわりや完璧主義はほどほどに、手探りで進めていくべきだと思う。その方がのちのち感慨深いし、お互い口に出すのが憚れる年齢ではあるが、「青春」と口にしやすい。

 

J×Jの冒険-2015年6月前編「ラウンド②」-

当時のスタッフKが「みんな、しんさんしんさん言って、おもろないですわ」と言うので、「だったら自分でイベントを立ち上げみたら?」と提案した。「そしたらとりあえずその日一日は主人公になれるんじゃない?」。Kはこの提案を恐る恐る了承した。

 

このタイミング(オープン2か月目)でイベントを立ち上げることになるとは思ってなく、Kはおろか、そのイベントにどのような意味合いを持たせればいいのか少し悩んだ。特に意味もなく、テーマもなく、ましてや「Kが目立ちたいって言ってるんですよ」という名分ではイベントは打てない。

 

「何をどうすればいいんですかね?」というKの問いに対して、「とりあえずA4の紙出して」と言った。今回のようにほぼ白紙の状態から何かを立ち上げる場合、まずはとりとめもなく(ロジックやリアリティは考慮せず)、とにかく頭の中に浮かんだワードをひたすら殴り書くようにしている。ポイントとしては「とにかくとりとめもなく」。何がどこでどう重要になるか、何がどこでどう結びつくかはわからないのでどれだけ現実離れしていても、どれだけ荒唐無稽であってもとりあえず「書く」。

 

まずセンターに大前提や要件、もしくは目標などコミットの対象を据え、それを中心にその他の希望や条件、連想されるワードなどを自由に書き込んでいく。僕自身は最近その言葉を知ったのだけど、いわゆる「マインドマップ」と呼ばれる思考・発想法の一つであるらしい。けれど、そんな仰々しいものではない。何かの筋道を示したり、何らかの着想を求めたりする時は紙やホワイトボードに書いてみるのが一番、といういたってシンプルで、いたって自然なアプローチだ。

 

まずはここから。今回の場合、中心となる命題は「イベント」であり、主たる要件は「Kが主体であること」。そして、決めなければならない(検討しなければならない)のは「目的」(意味や内容)と、「時期」。

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ざっくりな内容や差し当たって生まれるであろう課題を書き込む。

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この段階で「K主体」ということは「誰が料理をやるのか」、「Kが料理をする場合どうすればいいのか」、「開催が2か月後だとすれば料理の習得にKは間に合うのか」などの疑問や課題が浮かぶ。

「Kにとってのイベントって端的に言うとどんな感じなの?」

「うーん、"祭り"っすかね。」

 

「祭り」というワードもこれに加え、7月に開催される「祭り」で検索する。すると「隅田川花火大会」がヒットしたのでこれも書き込む。

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隅田川花火大会よくないっすか?みんな集めて見に行きましょうよ!!」

 

「別にいいけどさ、それっておまえが単純に花火大会の幹事やるってことだと思うけど、そんなんでいいの?」

 

「じゃ、じゃあ屋形船借りてパーッとやりましょうよ!!」

 

「それでもいいけどさ、それっておまえが単純に飲み会の幹事やるってことじゃないの?」

 

「じゃあ、俺が屋形船で料理しますわ!!」

 

「なるほど…。そんな良心的な屋形船があるといいけど。あ、それと調べるついでに料金とか諸々調べといて」

 

5分後。

 

「ヤマモトさん、無理ですわ」

 

「一回、屋形船からは離れて、祭りの線で膨らませてみよう。基本的には場所はここで。外だとイベントっていうか、ただの飲み会になっちゃうよ。それじゃあ、そもそものK主体っていうのがあやしくなるし、お代金もいただけないでしょ?」

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J×Jの業務の延長線として考えるとやはり「海外/世界」がキーワードになってくる。そこで順当に7月に開催される世界のお祭りを検索してみた。

「スペインって夏、いっぱいお祭りあるんすねー」

 

「例えば?」

 

「6月に火祭り、7月に牛追い祭り、8月にトマティーナ、ですね、ざっくり」

 

「なるほど…」

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「だったらさ、スペインをテーマにイベントやってみれば?スペインだけにフォーカスしてやれば、考えなきゃいけないことも絞れるし、いいんじゃん?」

 

スペインは観光大国の一つであり、皆、大なり小なり何らかのイメージは持っている。料理のバラエティーも豊富で、陽気な気質は夏にもKにもぴったりだ。「祭り」というサブコンセプトにも当てはまる。

 

「なんかイケそうっすね」

 

マインドマップは情報整理やインスピレーションだけでなく、モチベーションの刺激にも有効だ。イベント名は「J×J Festival-Spain round- 」にすることにした。そして、それと同時に、「次はJapan round」にしようと見据え、このコンテンツが定着すれば今後イベントの立ち上げがやりやすくなる、と思った。

 

今回のマインドマップは今回の記事のために簡易的に僕が改めてわかりやすく書き直したもの。当時のものはこれ。

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当時の苦労が滲み出ている。よくこの地図から「スペイン」というワードを導き出し、その後の「ラウンド」につなげることができたな、と我ながらちょっと感心する。

 

 

J×Jの冒険-2015年5月後編「ラウンド①」-

ランチに関しては前回記事に書いたように、価格やボリュームを調整しながら適切なポイントを手探りしていた。

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ディナーについてはちょうどこの頃に本格的にメニュー制作に取り掛かっていた。勿論、メニューはあったのだけど、アイテムを極力絞り込んでいたし、落ち着いたらすぐに練り直そうと思っていたので、作りも極めてシンプルなものにしていた(と言うより、ほとんどがコース利用だったというのもあって、手が回らなかった)。

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「世界」にちなんだカクテルの試作。このカクテルは「アラウンド・ザ・ワールド」。5月、暇な時はこうしたメニューの習得に励んでいた。

5月にはすっかり暇になっていたし(GWの影響もあるが歴代過去ワーストの売上はこの5月だ)、ある程度覚悟していたことでもあるので、上記メニュー含め追いついていなかったことや、浮き彫りになった課題に取り組んでいた。

 

一方、当時一緒に働いていたK(今はもう退職しているのでKとする)も働き始めてから一か月が経ち、少し落ち着いていた。そして、少し落ち着いてきたからこそ出てくる悩みもある。GWにはまとまった休みを作ってリフレッシュしてもらったのだけど、連休に入る前に「実際に働いみてどんな感じか」ということをしっかりヒアリングした。

 

彼の口から出てきたのは「みんな、しんさん、しんさん言って、おもろないですわ」ということだった。簡単に言えば「もっと目立ちたい」、と。東京に友達がいるわけでもないのに、Kという名前はすぐさま浸透して、人気者になっていた。僕からすれば、やっぱりすごいなKは、というのが最初の一か月の感想だったし、そう率直なところを伝えたのだけど、彼は納得いかない様子だった。

 

「そういうことじゃないんですよ、ヤマモトさん抜きで、もっとこう、俺にフォーカスが当たるような感じで」

 

「じゃあ、自分でイベント立てて、自分でやってみなよ」

 

「え…」

 

「それ以外即効性のあるアプローチある?ないでしょ。わかりやすいし、いいじゃん、イベントで。飲食経験のないKがオープン直後にイベントやるって言ったらちょっと面白いよ。決まりで」

 

「え…、マジすか」

 

Kがあからさまに強張っていくのが見て取れる。もっと言えば、あからさまに怖気づいていくのがわかる。

 

「でもイベントってどうやったらいいんですか?」

 

「イベントをどうやるか、よりも、どんなイベントにしたいか、じゃない?」

 

この時点では僕もそのイベントがどんなものになっていくか、見当がつかなかった。Kが早々にそんなことを言い始めるとは思わなかったし、イベントはもっと先に打つものだと考えていた。

 

最初の一年はもともと「自分がお店をはじめたら、これをしたい」とあらかじめ用意していたものを順々に表現していった。それがうまくいったかどうかはともかく、ほとんどは前々から構想されていたものだ。そうした中、このイベントは想定外だったし、その想定外がJ×Jのコンテンツとして定着していくことになるとはこの時思っていなかった。

 

Kがこの時口走った不満は「イベント」として形となり、そのイベントは「ラウンド」として遠心力をもって継続されていくことになる。そしてその遠心力が多方にわたり、好影響を及ぼしていった。僕はKが漏らしたいささか青臭い不満に、今、とても感謝をしている。

 

 

 

J×Jの冒険-2015年5月前編「迷走」-

2号店、間借り3号店のオープン、そして2回目の『嵐ツボ』出演など、怒涛の半年間を過ごし、ようやくこのブログの主旨である独立物語とその後の営業日報に回帰。今後もイレギュラーな投稿は随所に出てくるとは思うけど、本筋は本筋で進めていきたい。

 

前回投稿は「2015年4月」で止まっている。つまり、J×Jをオープンさせた最初の月で終わっている。25記事にわたる一大巨編となったが、以前も書いたようにこの時に考えていたことをその後の営業に反映させていったので、最初の1年はこの25話において完結しているとも言える。
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J×Jの冒険-2015年4月㉕「オープン1か月」-

http://blog.hatena.ne.jp/journeyjourney/journeyjourney.hatenablog.com/edit?entry=8599973812282171331

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けれど、当然、思うように進んだ部分なんていうのはほんの一握りで、ほとんどがうまくいかないことばかりだ。ブログではそのうまくいかなかった部分を中心に取り上げていくことになる。

 

まず初めの誤算はランチの客数が想像していた以上にシビアであったこと。何せ人目のつかない裏路地にあるし、一般的なメニューを提供しているわけでもないので、いきなり結果がついてくるとは考えいなかったけれど、他に同じようなお店がないため認知は自然と広がっていくだろうと甘く算段していたのは否めない。特に男性客に関しては全く取り込めず、店内はほぼ女性ばかりだった。女性をターゲットに進めていくのであればそれはそれでよかったのかもしれないが、夜の貸切宴会にどうつなげていくかがポイントである以上、そのイメージは何とか打破していかなければならない。当時はテーブル・イス含め全面真っ白という内装だったので、その時点で敬遠する男性も少なくない。ただ、内装に関してはすぐにどうこうできるものでもない。そして、男性客が呼び込めないからと言って、早々にメニューをいじるのもリスキーだ。

 

とは言え、何も手を打たないというわけにはいかない。

 

そこで、既存のランチメニューのままで少し変化をつけて、様子を探ってみることにした。まず第一にレギュラーのカオマンガイが800円、日替わりが900円で提供していたがこれを試しに期間限定で800円の同一価格としてみた。今では日替わりの方が出数が多いのだが、当時はカオマンガイに編重していた。まずはカオマンガイを知ってもらいたかったので、それはそれでよかったのだけど、日替わりも認知されない限りカオマンガイ屋さんになってしまうし、余った日替わりの在庫の問題も出てくる。値段を合わせ、日替わりは男性が好みそうなメニューを中心に組み立てた。

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当時の日替わり。パエリアやタンドリーなどできるだけメジャーなものを。

次に試したのはボリュームだ。男性からすれば物足りなく感じている可能性は十分にある。カフェ仕様というイメージがつくのも恐れていたため、男性にはご飯の量を多めにしていたが、これも適正量なのか判然としなかった。日替わり800円の施策を終えるとともに、今度は大盛無料にしてニーズを引き出そうと試みた。結果的には結局、マチマチなものだった。値段を合わせれば当然日替わりに流れる数は多くなるし、大盛無料ににすれば大盛を頼む人も増える、けれど、そうした数値的な現象よりもそれにかこつけて「量どうした?」、「もっと食べられますか?」などを直接聞いてみるのが最も効果的に感じる。ただそうしたコミュニケーションをとる余裕は当時の僕らにはなかった。

 

結局、決定的な手応えも手掛かりもないままセールを終え、僕は店の前を通り過ぎていくサラリーマンの背中を悔しく追った。

 

【追記】

①日替わりについては翌月800円に価格変更 *2018年現在も同じ


②ボリュームについてはその後も迷走。適正量は人によってやはりマチマチなのだけど、結論、僕らの提供量は多かった。女性でも大盛頼まれる人が当時はちらほらいて、余計に混迷。尋常じゃないくらいの量を出していた時期もあります。無理をして食べてもらっていたことも多々あるかと存じます。その節は大変失礼しました。ごめんなさい…。

 

嵐ツボサンドイッチを召し上がっていただいた皆様への感謝とお正月の味への冒険

1月3日に放送されたフジテレビ「嵐ツボ」放送から早一か月以上経ちました。放送後、2号店「BOX」にたくさんの方にお越しいただき、またサンドイッチを楽しんでいただくことができ、大変嬉しく思っております。

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一か月経過し、大分落ち着いてきましたが、まだまだご予約のお客様はいらっしゃいますし、期間限定としながらも当面は引き続きご提供してまいります。なので、ここで改めてメニューを紹介させていただきます。

嵐さんに食べていただいたのは3つのサンドイッチです。2号店ではランチ、ディナー問わず、3種類の盛り合わせセット(下記写真、¥1,200)とともに、単品(各¥800)での提供もしております(なおサンドイッチは2号店のみでの取り扱いとなります。ご了承くださいませ)。

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単品ごとで言えば、まずメキシコの「トルタ・アホガーダ」。

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下半分がトマトスープに浸かった半身浴サンドになってます。松潤さんが番組内でちらっとおっしゃってましたが、甘めのトマトソースではなく、ほんのり辛く、ほんのり酸味のある現地の「サルサ」に近いトマトスープに仕上げてます。ゆえにパクチーとの相性がよく(メキシコ料理ではパクチーが多用される)、提供時にはパクチーをおつけするかどうかを事前にお伺いするようにしております。

番組内でも触れられたとおり、問題点は「食べづらさ」であり、こうした事情により放送直後はご提供するかどうかを迷っていたのですが(当時は2種盛り合わせだった)、「嵐さんが体験した食べづらさも同じように体験したい」というファンの方の声もあり、急ぎメニュー化した次第です。

なお、このトルタ・アホガーダについてはランチ時にテイクアウトメニューとしても販売しております。

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続いて、アメリカの「ジャイロサンド」です。ジャイロはギリシャの「ギロピタ」という料理に由来し、日本でもよく見かける「ケバブサンド」にも近いのですが、特徴の一つに挙げられるのはそのパンの形状。日本で流通しているのはポケット状のピタパンが主流であり、ジャイロに見合ったパンがなかなか見当たらず、頭を悩ませたのですが色々試作した結果、ジャイロに適したパンを見つけることができました。この生地がジャイロの最大のポイントであり、また、3種類の中で最もオーソドックスに人気たらしめてる理由ではないかと推察してます。

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最後にオランダの塩漬けニシン「ハーリング」を使ったサンドイッチです(下写真手前)。

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 「映え」が重要項目になる今の流れにおいて、いかんとも「映え」のないサンドイッチであります。もともと生(に近い)ニシンを食べる習慣がないので、他の2種と比べて好き嫌いの分かれるところではありますが、ハーリングに施されている塩味がおつまみに向いていることもあり、お酒を飲まれる方には好まれる傾向があるように思います。サンドイッチを召し上がっていただいたあとに、本店に移動して飲まれたお客様がいらっしゃったのですが、追加注文で単品のハーリングを頼まれることもありました。ハーリングファンとしては嬉しい限りです。

 

 サンドイッチについての改めての説明は以上になります。

 

ご来店いただいたお客様の中には他のご友人を連れられて、リピートしてくださる方もいらっしゃいます。本当にありがたいことです。また飲食店ゆえ、なかなかゆっくりお話しできず恐縮に思うことも多々あるのですが、こちらの状況にご配慮、お気遣いいただけてることにも心より御礼申し上げます。

 

「実際会ってみてどうでした?」というご質問が最も多いのですが、2回目で僕自身がある程度リラックスできていたということもあり、オーラや「カッコよさ」もさることながら、今回はそれと同様に「フランクさ」が強く印象に残りました。超多忙にもかかわらず、自然体で気さく、というのが率直な感想であり、改めて嬉しく思いました。

最後に、2号店の店内にはスタッフが書いた似顔絵を飾っています。順次描き進めてもらったので5人全員が揃うまでにお時間いただきましたが、先日完成。

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 そして、つい最近においては、

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 少し離れた端っこのほうに僕のイラストも位置させていただいております(誠に畏れながら)。


ハーリングがお正月の味になれるよう、微力ながら邁進してまいります。引き続き、よろしくお願い致します。

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第1位「ハーリング」への冒険

オランダという国に何を思い浮かべるだろうか。

チューリップ、風車、運河など美しいものを想像する人もいれば、「飾り窓」や大麻合法などダーティーなものをイメージする人も少なくない。この一般的なイメージは全てオランダという国に相違なく該当する。街並みは美しい、けれど、一歩内側に入るとアンダーグラウンドな世界が惜しげもなく広がっている。世界有数のエレガントなファンキータウンと言えるだろう。

けれど、それもオランダという国の表層でしかない。もう一段階踏み込むと僕たちはオランダについてほとんど何も知らないということに気づかされる。例えば、僕たちはオランダ人の国民性について、何かしらのイメージを持ち合わせているだろうか。シンボリックな建造物や観光資源もなく、有名人と言えばゴッホくらい(ちなみにクリス松村はオランダ生まれだ)、歴史の教科書に大々的に取り上げられることもなく、印象にしろバイアスにしろ、その性格的特徴は見えてこない。わりと取っ掛かりのない国だ。

世界的に見ると「オランダ人は倹約家」という見方が強い。オランダ人は英語で「ダッチ」という俗称で呼ばれることがあるが、「ダッチアカウント」(割り勘)や「ダッチワイフ」はこのオランダ人の倹約気質に由来される。先に歴史の教科書で大々的に取り上げられることはない、と書いたけれど、日本史においては「江戸時代の鎖国政策の中、中国とオランダだけは交易を許されていた」というのがオランダのハイライトであり、考えてみれば、なんでオランダだけ?、ということになるのだが、当時スペインやポルトガルが交易とともにキリスト教の布教に励む中、幕府はこれをよしとせず両国を始めキリスト教国家を排除。一方、オランダは「我々は商売一筋、他には絶対に何もしないから」と猛アタックし、日本はこの下手な口説き文句さながらのアピールに落とされ、長崎出島にて友人以上恋人未満の微妙な交際をスタートしたのだ。島原の乱の際には幕府に協力して、籠城中の日本人キリシタン(オランダ人からすればある意味同胞)に大砲までぶっ放すという歴史的ビジネスライクを全世界に公開、欧州諸国はこの拝金主義に「おいおい、マジか」とドン引いたそうです。


っていうことなんて知らないし、そんなイメージも全然ないんだよね、オランダ。


僕にとってはもはやただひたすらにニシンが美味しい国、オランダ。


チューリップに見惚れるもよし、飾り窓に興じるもよし、けれども、オランダを訪れるのであれば、是非ハーリングが解禁された直後をおススメしたい。以前は解禁日前にフライングでハーリングを売り出す業者も多かったみたいなのだけど、政府はこのフライングを2007年にきっちり法律で禁じております。際どいラインが色々と諸々と合法なのにもかかわらず、ハーリングの解禁をズルしたら厳罰に処す、というとことんよくわからない国なのであります。


エッセイ風に書く以上、結びに何らかのカタルシスを導きたいんだけど、ほんと取っ掛かりもつかみどころもないんだよね、オランダ。


まあ、人のこと言えないんだろうどけどね。

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今ひとつつかみどころのないオランダの、今ひとつ美味しさが伝わってこないハーリングを、今ひとつの反応の中、

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めげすによくやるよね。

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【嵐ツボ】第2位「ジャイロ」への冒険

「世界を一周しよう」と思い立った時、まずはじめにそのコースについて考えることになるのだが、「西からまわるか、東からまわるか」で大きく2極化される。傾向からすると西周りを選ぶ人の方が多い。まずはアジアでならしてから(あるいはフィリピンでの英語留学を経てから)、徐々にハードルを上げ、クライマックスに南米やアメリカを持ってくるパターンだ。

 

僕の場合、アジアはそれまでにも何度も行ったことがあったので、東周りを選んだ。そして、まず最初に訪れる国はニューヨークだと前々から決めていた。世界の政治・経済・文化の牽引役であるニューヨークを旅のスタートとしたかった。

 

きらきらしたものを想像していたけれど、そううまくはいかず、空港でのっけからぼったくりに遭うわ、タクシー運転手にはスラム街で乗り捨てられるわ、次につかまえたタクシー運転手には再びぼったくられるわ、で散々な滑り出しだった。おまけにこの日のマンハッタンは大雨でユースホステルに着いた頃にはずぶ濡れだった。「こんなんで本当に世界一周できるのか」と不安いっぱいの初日となった。

 

ふんだくられた分を少しでも取り戻すため、初日の晩御飯は抜きにして、翌朝、ホステルの近くでクリームチーズとハムを挟んだベーグルをテイクアウトした。ホステルのエントランスでベーグルを頬張りながら、コーヒーを飲んでいると、宿泊客が続々とチェックアウトしていく、そして、続々とチェックインしていく。寄せては返す波のようにひたすらに人が入れ替わっていく。まだ朝7時にも関わらず。

 

あまりの混雑っぷりにびっくりして、ピークが落ち着いた頃を見計らって、

「毎日こんな感じなの?」と聞いてみた。

するとエントランスのお姉さんは「毎日こんな感じよ」と答えた。

「毎日600人が世界のどこかからここを訪れて、毎日600人がここから世界のどこかに飛んでいくの」

 
「すごいね」

「Welcome to New York」とお姉さんは言った。

 
そのいかにもな言い回しに、僕は心が弾み、初日の失態を忘れて、ニューヨーク観光を多いに楽しんだ。2日目は特にトラブルに見舞われることなく、ホステルへと戻り、近くの食堂で初めての晩御飯を食べた。それが「ジャイロ」だった。

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「ジャイロ」は円盤状のピタパンにスパイスで味付けした肉を乗せ、レタス、玉ねぎ、トマトなどを野菜たっぷり重ねたものをくるんで食べるベンダーフード。中東のケバブサンドに似ているが、特徴としてはケバブに使われるピタの多くがポケットに具材を詰め込むスタイルに対して、ジャイロは具材を乗せてそのままくるむ。ジャイロの由来はギリシャの「ギロ」にあるとされ、では「ギロ」と「ケバブ」の違いは?、「ジャイロ」と「ギロ」の違いは?、ところで僕が食べたジャイロの生地はインドのナンの食感に近かったがこの関連性は?、と調べれば調べるほど混迷を極める。


ひっくるめて、ニューヨークらしい食べ物だな、と思う。


ユースホステルのチェックインカウンターがそうであったように、ニューヨークは人々の往来が無限に繰り返される街だ。人々の往来とともに、世界中の情報が届けられ、世界中の文化が運び込まれる。確立された内的なものに外的なものが入ってくる場合、排他的な反作用が起こりやすくなるが、ニューヨークにその傾向は見られない。果てしない新陳代謝の中で、その新陳代謝そのものがニューヨークをアイデンティファイしているように思える。「確立しない」ということで「確立している」、という逆説をニューヨークは体現する。ジャイロもまた、ニューヨークという新陳代謝が体現したハイブリッドの一つであるように思えた。


少なくとも、2011年の11月まではそう思えた。今はどうなっているだろう。


日本から日本的なものが消失してしまったら悲しいように、ニューヨークからニューヨーク的なもの、僕にとってそれはすなわち「何者も拒まない新陳代謝」なのだけど、それがなくなってしまったらやっぱり寂しいだろうな。この街に魅せられた一旅行者としては。

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ちなみに本場のジャイロもきっちり食べづらかったです。でも、そこが醍醐味でもあります。思いきってかぶりつこうじゃありませんか。Yes,we can.